もしメンバーに直接感想を述べるとしたなら、「いやあ、変態(すばらしい)です! 変態(すばらしい)ですね!」と笑顔で言いたくなってしまうようなライブでした。可能ならば、握手した手をぶんぶん振りながら、もしくは肩をバシバシと叩きながら!
まあ、そんなこと実際には言えるわけないですし、恐れ多いので冗談なんですけど、ステージングにしても演奏にしても、それは変態すぎるでしょー!という場面がいくつかあり、ニマニマしてしまうライブだったんです。そんなニマニマしている自分も、変態の1人になりつつあるのかもしれないなあ、なんて思いながら。
というわけでsukekiyo。京都公演1本だけにしようと思っていたんですが、都合がついたので東京公演も観に行っちゃいました。
きょうの公演は特に喪服限定、黒服限定というわけではなかったのですが、会場前に着いたら、90パーセントくらいの人が黒い服を着ていてたまげました。かくいうわたしも、一応黒メインの服で行ったんですけどもね。インタビュー等でメンバー…京さんが話していたことを各々が自主的に実行しているということだと思うので、純粋にすごいなと。
ホール内に入ると、アンビエントな音楽がひかえめに流れていました。スクリーンには、「sukekiyo」のロゴが映し出され、青いライトにぼんやりと照らされています。ステージ中央にはマイクスタンドやシンプルなパーカッションのセットが。
ブザーが鳴り、18:40ごろ開演。そっと押し黙る観客。稀に見る異様な緊張感。
そんな中、スーツに身を包んだ楽器陣が1人ずつ颯爽と登場。映し出されていたsukekiyoの文字は消えたものの、スクリーン自体はそのままだったのでメンバーのやや後ろ幕がある状態でした。
未架さんが最初に現れたのですが、客席は暗黙の了解のように(4/28のリキッドルーム公演で京さんが「黙れ」と発したのも関係したと思われる)、拍手なし、歓声なしで全員座ったままでした。おそらく誰もが「あ、きょうはこういうスタイルになる」と直感的に思ったはず。よくよく考えてみると日本という環境だからできたことでもあるのかも。
ひっそりと静まり返ったホールに、メンバーの足音だけが響きます。
客席のほうを向いて半円を描くように位置に着く楽器陣。下手からヴィオリラ UTAさん、アップライトベース YUCHIさん、ボンゴ(?)未架さん、アコースティックギター 匠さんの順。
そして、目の周りを黒く塗り、アートなメイクを施した京さんが登場。指揮者のように客席に背を向け、楽器陣の真ん中に立つ。想像していなかったフォーメーション。
衣装は、袴風の黒いロングスカート(フレアワイドパンツ?)に黒い羽織、低いヒールのあるブーツ(?)。ライブが進むにつれて、ときどき模様の入った紅色のインナー?帯(スカーフ?)が腰からちらちらと見えていました。ちなみに一度も衣装を脱がなかったので逆に新鮮味が。
京さんが位置につくと「elisabeth addict」が紡ぎ出されました。いやーこんなに体をこわばらせて緊張しながら演奏を聴いたのはひさびさかもしれません。ハラハラするという意味ではなく、その空気感にドキドキするという意味で。ピアノがないため、一度目の“終わりを超え地平線~涙拭えない”のフレーズは京さんがアカペラで歌います。意外だったのは、UTAさんの弾くヴィオリラが思ったよりも音量があって、こんな音なんだ!とはっきりわかったこと。手前に引いた弓を、肩に担ぐようにふわりと上げていたのが印象的でした。剣を担いでいるみたいで。
このときの5人の姿は、砂ぼこりの舞う異国の街角で演奏する楽団のように見えました。景色が見えるというか。あるいは月夜に行なわれる儀式のイメージ。
楽団も英語だと「バンド」になると思うんですが、クラシカルなニュアンスで使ってます。
未架さんがそっと曲を締めると、SE「destrudo」が流れ出しました。それと同時に後ろの幕がさっと上がり、青と白色のまばゆい照明に照らされたステージがあらわに! もうこの演出で鳥肌が立って満足感半端なかったです。
5人は光のほうへと歩を進め、各自定位置に。今度は、楽器陣は横一列に並び(アンプとキャビがステージにない!)、その前に京さんが立つフォーメーションでした。楽団からヒール(悪役)集団に変貌した感じ。京さんが頭首みたいな。
また話が逸れましたが、そんな立ち位置だったので、京さんは上手・下手へ自由自在に動けるという。ただ、正面を向いていると、楽器陣の姿はあまり視界に入らないんじゃないかという気がしました。そのためかどうかはわかりませんが、未架さんのほうを向くこともちょいちょいありまして。
「elisabeth addict」~「destrudo」と繋がったときになんとなくピンときたんですが、その予感は的中で、セットリストは結果的にアルバム『IMMORTALIS』の曲順通りとなりました。
曲間を大事にしているんだろうな、というのが伝わってくるくらい、すごく自然に繋いでいましたね。休憩なくて大丈夫かと心配になってしまうほど。
曲と曲の間はもちろん、1曲の中でも楽器を持ちかえたりするから…特に匠さんはピアノやアコギもあるから、立ったり座ったり、ものすごく忙しそうなんですよ(笑)。しかもローディやスタッフを使わないんですよね。みんな自分の周りに楽器を置いておいて、セルフで持ち替えていました。ステージには最小限の人間を、というよりかは、そのほうがスムーズだからという物理的な理由かもしれないです。でも、それでちゃんと成り立つのは、準備に準備を重ねた成果なんでしょうね。
演出的な面では、「aftermath」で真っ赤な番傘、桜、紅葉、水滴のクラウンなどが映し出されました。
あとは、たしか「the daemon's cutlery」のときだったかな? 凸型、凹型のような形に切りだされた薄いブロックが天上から吊るされて、そこを含めて映像が投影されていました。前から観ると3Dみたいに見えるんです。
「mama」ではグッズのステッカーと同じ緊縛女性の絵が描かれた掛け軸状のものが5本、これまた天上から吊るされました。そのほかの楽曲は基本的に、メンバーのシルエットを生かしたライティング。
リエントメンバーのプレイ、ステージングはやっぱり懐かしい感じがしましたね。カッチリしたフォームで丁寧に弾く匠さんに、酔いしれているように強弱をつけながら叩く未架さん。このお2人は、sukekiyoではどちらかというと「静」のタイプなのかも。対する「動」はYUCHIさんとUTAさん。特にYUCHIさんはびっくりするくらい頭を振る! 振る! 「hidden one」ではYUCHIさんとUTAさんが向かい合ってヘドバン対決してましたよ…。一緒に暴れたいと思っている人にとっては、あなたたちはドSですか?って感じでしょうね(笑)。これ、変態だと思ったポイントのひとつだったりします。
独特のフォーメーションのため、これが本当の「フロントマン」という立ち位置いる京さんは、ステージを大きく使って動いていました。目の前に誰かがいるように手を伸ばしてみたり、唇をぬぐう仕草をしてみたり、両手を広げて天を仰いだり、演劇的な要素も感じられました。歌詩とリンクさせた動きをしていたかも。
それに、滑るように軽いステップで移動するので、たまに宙に浮いているようにも見えたり(笑)。どっしりしているというよりは、軽やかで儚い感じでしたね。
この日のライブでの一番の収穫としては、「あ、この楽曲はこんなふうに演奏されていたんだ」という発見があったことかもしれないです。「この音もギターだったんだ」とか「ピッキングじゃなくてタッピングだったんだ」とか(「nine melted fiction」の音源0:28ごろの匠さんのフレーズ、プリングだと思っていたら違った)、「ここでこっちの楽器を使うのか」とか。こうやって構築されていたわけか!というところに楽しみを見出すことができるライブでもあったと思います。
それともうひとつ。くらべてしまうのはアレですけれど、DIR EN GREYのライブでいうINWARD SCREAMのような楽曲「烏有の空」。生演奏でやるとこうなるのか!という衝撃があったのはもちろんなんですけど、メンバー(特に未架さん)が京さんを見ながら波長を合わせるように演奏していたのにすごく驚いたんです。冒頭にもちょこっと書きましたが、京さんを指揮者のように見ているわけですよ。ここも変態だと思ったポイント。
そんなふうに一丸になることもあれば、5人それぞれの個性大爆発!みたいなときもあって、すごく発展性を感じました。sukekiyo、おもしろいですホント。
アルバムの曲順通りに演奏されたと書きましたが、「in all weathers」のアウトロ間際で京さんは、マイクを床にコトリ、と置き一度はけたんです。百恵ちゃんかと思ったのは秘密です。そのあとは楽器陣だけでジャムセッションのように、アレンジした演奏を続けていました。しばらくして、京さんが再び姿を現わし、「304号室、舌と夜」を披露。アンコール的な感じだったんでしょうか?
聞きとれなかったのですが、“被害者の舌はありません”のセリフは別の言葉に置き換わっていました。そして最後に「おやすみ」と一言。
上手側へ去っていくメンバー。はっと思い出したように数テンポ遅れて拍手が起こりました。メンバーの名を呼ぶ声はなかったものの、その1回の拍手にすべての称賛が込められていたように感じました。
sukekiyoは「娯楽」というより、自分にとっては「刺激」かもしれないです。