summer diary

日記らしきページ

傘が要るか要らないか

2016年08月19日 | Weblog

  傘が要るか要らないか、どうしようかと迷うほどの小雨がぱらついている。とりあえず傘を持って家を出た。 
普段から車で移動することがほとんどで歩くことがない。だから、傘を必要とすることもないし、
あまり使うこともしないので、雨の降っている様子から要るのか要らないのかの判断に迷った。

今日はたまたま我が家の2台の車は妻と息子がそれぞれ使用しているので歩くしかなかった。
ちょうど煙草を切らしてしまって、自販機は近くにあるが、タスポなるカードを持ち合わせていないので、歩いてコンビニまで行くしかない。
まっ、たまには歩くのも悪くない。 普段から自分の住んでいる家の周りでさえ車の窓から通りすがりに眺める程度だし、のんびりと見ることもなく通り過ぎているだけだった。
だから以外にもこんなに近くにこんな家があったのかとか、道の端に生えている草などにも目を留めて見るのも悪くないと感じた。
家々の玄関先にはきれいな植木鉢が並べてあったり、鳥の鳴き声が聞こえてきたりして、歩くことも意外といいもんのだと思えた。特に大通りに出る前には高等学校があり、その周辺には松の木が繁っていて、この猛暑の中でもその通りだけは涼しげに感じたりして気持ちいい。ただ、セミの鳴き声は余計に暑いと感じるように聞こえるのは僕だけなんだろうか。 

一応傘を片手に家を出たので、雨粒がもう少し多くなってきたら差すつもりでいる。それまでにコンビニで煙草を買って帰ることができればこの傘は必要ないほどの小雨である。その傘を歩きながら杖替わりにしたりしている。 もちろん、そんな杖が必要な歳でもないけど。その傘の先を時折地面にトントンと付けながら歩くとリズムがあっていい。 

コンビニがある大通りに出る前に高等学校の門がある。 その門を通り過ぎようとした時に、自転車に乗った女子高生が門から飛び出してきた。僕は慌てて歩くのを止めた。 もちろん、ぶつかりそうなほどに自転車との距離が無いわけでもなかたったのだが、反射的に停止したのだ。 いつもは車で通り過ぎるこの道はやっと車が擦れ違えるほどしかないので、普段から注意深く運転している道なので、思わず足を止めてその場所に停止した。

門の前は広い歩道になっていて、車道とはガードレールで仕切られている。勢いよく自転車で飛び出してもよほど運転を誤らない限り車道へ出ることはない。 

女子高生は門から飛び出して、左方向の歩道に入った。大通りに向かう方向だ。その時に前かごに入っていたカバンと小さいポシェットがかごから飛び出しそうな勢いで中に浮いた。 そして、カバンはかごに戻り、ポシェットは地面に落ちた。 

「キー」と言うブレーキの音をさせて女子高生が自転車を停止させて止まった。「やだ、もー」女子高生は若々しい高い声をあげて自転車を片手に持ちながらそのポシェットを拾おうとしたけど、手が届かない。 左手で握っているハンドルから手が離れて、斜めに傾いている自転車は彼女の右肩にパタンと倒れて、彼女の肩で止まり、転倒まではしなかった。

「あ、痛い」声を上げながら右肩で支えている自転車をゆっくりと立て直して、今度はスタンドを立てて止めた。
それからポシェットをゆっくりと拾い上げてからチャックを開けて中を覗き込んでいる。彼女のその様子をぼんやりと眺めていた僕に気付いたのか、こちらに視線を移すとちょっと照れくさそうに苦笑いをした。 

僕はその動作にぼんやりとしていたのもそうだけど、それ以上に彼女の肩を覆うようにして伸びている少し茶色掛かった艶のある髪の毛が風になびいている様子、そして大きな二重の目、鼻筋がすっと立ち上がっている均整の取れた顔立ち、膝上までの短い制服のプリーツスカートから伸びるすらりとした長い脚が特に目に入って来て、思わず見とれてしまったと言ってもいい。

高校3年生だろうな、たぶん。もう、大人の雰囲気を十分に持っているその容姿から想像できた。制服の上着は白色でセーラーカラーはプリーツスカートと同色の水色、それより少し薄いラインが3本ついている。上着の丈も短めで、ポシェットを拾おうとした時に、胴回りの素肌が見えたほどだ。 

僕は苦笑いをしている彼女に近づいて、「大丈夫?」と声を掛けた。
「ちょっと肩が痛いけど、大丈夫だと思う」彼女が答えるその唇の艶やかさに再びぼんやりとしてしまった。口紅はつけてないだろうけど、そのピンク色のきれいで艶のある唇の形は女性の理想的な唇だと宣言したくなるほど美しかった。

「ありがとうございました」と彼女が言うまでの間隔がどれぐらいだったのかも忘れていまいそうなぐらいに僕は彼女の顔を眺めてしまっていた。「いえ、怪我がなかってよかったね」と言うと

「怪我はいいけど、ちょっと壊れてしまったものがあるから」とポシェットの中から取り出して僕に見せてくれた。 

それは陶器でできた地蔵様だった。親指ほどの小さな白色に赤の前掛けが付いている。
頭の上にストラップが付いていてカバンや携帯に取り付けられるようになっているものだった。

その地蔵様の左脚の小指の先を彼女は指差して、「ここがちょっと欠けてしまって」と言いながら目を細めて眉を寄せた。

「そうか、それは運が悪かったね」と言い、自転車の前輪を跳ね上げたであろう少し大きめの石が1mぐらい離れた場所に転がっていたのを拾って、彼女に見せながら「この石に乗り上げてパウンドしてしまったんだね」と言うと

「そうか、いきなりタイヤが浮き上がったのでびっくりした」「あーあ、なんでこんなところに石なんて落ちてるかなー」と言うと、右手のひらを僕に差し出して、その石をくださいという目で僕を見つめたので、彼女の手のひらに石を乗せると、その石を前かごに入っていたカバンのチャックを開けて入れた。

雨粒が少し大きくなって降ってきた。僕は傘を差して彼女の上にかざして、「やれやれ、雨が少し強くなってきちゃったね」と言うと、「大丈夫です。雨に降られるのは慣れているし、家に帰るだけなので」と言いながら自転車に跨り、「ありがとうございました」と言いながら頭をペコンと下げ、ペダルにすらりと伸びた足を乗せて、立ち漕ぎをして走り出すと大通りへ向かっていった。


最新の画像もっと見る