ロシア軍によるウクライナ侵攻で、国内の木材価格が上昇している。経済制裁の応酬で、ロシア産木材の供給が停滞しているためだ。住宅や家具の購入など市民生活にも影響が出ており、政府は緊急対策に乗り出した。(虎走亮介)

間取り変更

 

 東京都小平市に一戸建て住宅を建てる予定の会社員男性(36)は5月上旬、住宅建築会社の担当者からこう告げられた。

 「ウクライナ情勢のあおりで木材価格が上がっている。予算を増やすか、部屋の数を減らしてもらうしかない」

 マイホーム建設は長年の夢だった。長男(6)の小学校入学の時期を考えるとキャンセルはできない。迷いに迷ったが、妻(32)と相談して当初の契約金額5000万円のまま、5LDKから4LDKに間取りを変更することを決めた。男性は「世界情勢が生活にのしかかってくるとは想像していなかった」と肩を落とした。

 家具の価格も上がっている。「日本家具産業振興会」(東京)によると、家具大手数社がロシア産タモ材などを使うテーブルや食器棚を10〜20%値上げした。高橋清司専務理事は「原材料の価格や物流費の上昇が要因だ」と話した。

輸入82%が露産

 

 木材価格は、世界的な住宅需要の回復やコンテナ物流の混乱による「ウッドショック」でもともと高騰していた。そこにウクライナ侵攻が拍車をかけた。ロシアは西側諸国からの経済制裁への報復措置として、日本などにチップや薄い板「単板」の輸出を禁止した。

 単板は、住宅の屋根や壁に使われる合板の素材となり、昨年、総輸入量(29・4万立方メートル)のうち82%をロシア産が占めた。農林水産省の最新の統計では、針葉樹合板の全国平均価格は3月、1枚2070円で前年同月比で約7割高くなっている。

 合板を扱う東京都江東区の木材販売会社「大一木材」では、ロシア産のカラマツを使った住宅用合板の在庫が減った。営業部担当課長の両角もろずみ直樹さん(56)は「ここまで品薄になるのは災害時を除けば初めて。住宅だけでなく、ビルやマンションの建設にも影響しかねない」と気をもむ。

 「ロシアの木材は『紛争木材』とみなす」。国際機関「森林認証制度相互承認プログラム(PEFC)理事会」は3月上旬、そう発表した。PEFCは適切に管理された森林資源の活用を推奨。国内事業を担う「緑の循環認証会議」(東京)の梶谷かじや辰哉事務局長(70)は「ロシア材は国際的に締め出されている。侵攻が続けば業界への影響も大きくなる」とみている。

政府が緊急対策

 

 今後もロシア材の供給が逼迫ひっぱくし、夏以降は業者の在庫が尽きる恐れがある。

 政府も国産材への転換支援を進める。物価高騰対策の「総合緊急対策」のうち、林野庁は木材加工業者らを対象に、国産木材の運搬費や調達費を支えるため約40億円を充てる。住宅建築会社や工務店にも、工法変更に必要な費用を支援する。

 林野庁木材産業課の斎藤健一課長は「中長期的な対策としても国産材の利用を進め、海外市場の影響を受けにくい需給構造の実現につなげたい」と話した。