「新しい道徳」北野武著、を読了した。
ビートたけしこと、北野武流の、噛み砕いた道徳論。今の道徳教育を否定してみたり、参考にしてみたり、最後は、自分で考えろ、と言って問題を投げ出しているようにも見えるが、やはり、知識よりは智慧、考える重要性を説く。
たけしは若い頃とは違い、それなりの年を重ねた者として、子供たちを心配している。しかし、時折笑いを交えたりしつつも、少し諦めの境地も感じられる。自分を完全に人生を卒業間近の人間として扱う。
しかし、「只今臨終」じゃないが、死を身近に考え、死を考えることは生を考えること、今の長寿社会に生きる我々が、昔の貫禄のあった者たちに比べて、余りに軽薄に過ぎるのは、現代人から死を遠ざけたせいとたけしが断ずるのは、養老孟司先生の「死の壁」に通じ、提言としては重い。
たけしの長い独り言を聞いてる気もするが、本とは元々そんなものだろう。
しかし、「あとは自分で考えてほしい」という最後の言葉は、何か煙に巻かれたような、何も考えられない位にもっと徹底的に論じ切って欲しかった、読後感は消化不良、何かモヤモヤ感ばかり、と言う気もした。
たけしも、とうとう道徳論に切り込むようになったか、と言う新たな感慨を得た。こういう早くさっさと好きなことやって死んでいきたいと言う人に限って、たけしのような人は、業が深く、意外と長生きする気がする。
いずれにせよ、たけしと道徳、どう結び付いても結び付かない両者が結び合い、現代道徳教育にたけしが物申す!、と言う、願ってもない論説本であった。