翻訳者の散歩道

  ☆ 法律翻訳者の思考のあれこれ ☆
(「翻訳者になりたい人のためのブログ」を統合し「第ⅡBlog〇〇編」と表記)

夫婦別姓を考える-その2

2007年02月04日 | 法律
(続きです)
しかし、結婚すれば夫の氏を名乗るのがフツーとされ、98%が夫の氏を名乗っているそうです。これは、実質的な不平等といえましょう。

日本の氏の歴史を見ても、古くから夫婦別氏は存在し、例えば、有名な北条政子は源頼朝の妻でも源政子とはいいません。

時代の流れとともに、女性の社会進出はひろまり、女性の地位も向上し、活躍の場が広がるにつれ改氏による不便は否めないでしょう。

そのような背景のもと、選択的夫婦別氏を制度化しようとする動きが出てきました。
ご存知のとおり、婚姻後も配偶者の氏ではなく引き続き自分の氏を名乗る選択肢を与えようとするものです。
しかし、1996年に法制審議会がこの制度の導入を提言してから早くも10年以上経過しましたが、実現する可能性はどのくらいあるのでしょうか?

実現を阻む原因のひとつとして、別姓を許すと「家族の崩壊につながる」→「日本の国家社会の秩序を乱すもの」という思考の根強さがあげられます。

氏を家として統一することで、家族が崩壊せず、日本の国家社会秩序が安定すると発想をつなげるのは個人的には少々難しいところではあります^_^; 
確かに、家族としての安定は社会秩序の基本でしょうが、これは必ずしも夫婦同氏制度をとることには繋がりません。

世界の多くの国が選択的夫婦別氏制度を採用しており、日本でもそれを認めることが現代社会の要請ではないでしょうか。

参考:法務省民事局「選択的夫婦別氏制度」について

夫婦別姓を考える-その1

2007年01月29日 | 法律
先日、選択的夫婦別姓に関する世論調査(面接!)の結果=容認派の減少、反対派の増加=が発表されました。注:年代が上がるほど反対派が多く、性別でいえば男性の方が反対派が多い。

ここで夫婦別姓についてチョコッと(^_^)

民法§750では「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫または妻の氏を称する」と規定しています。(夫婦同氏制)

しかし、歴史的に遡ると、
 明治8年に氏の使用が義務付けられる。
  ↓
 明治9年、「妻の氏は実家の氏を用いる」とされ、(夫婦別氏制)
  ↓
 明治31年、(旧)民法成立。
 夫婦は、家を同じくすることにより、同じ氏を称することと規定されました。これは、いわゆる「家」制度の導入に伴うものです。(夫婦同氏制)
  ↓
 昭和22年民法改正。現在の形になりました(夫婦同氏制)

意外にも、歴史的には夫婦別氏制があったのですね(@_@)

現在の夫婦同氏制は、【夫か妻のどちらかの氏】にするというもので、一応法律上は平等になっています。


  ----続く-----
(諸般の事情により、分割して書きます。

 

あぁ、六法

2006年11月10日 | 法律

六法も、そろそろ2007年版に買い換える時期かなーと思って、改めて今年(06年)のを眺めたら・・・

そうです、すべて口語体になっていたのですね。。。 

注1:六法=憲法、民法、刑法、商法、民訴(×眠訴^_^;)、刑訴
注2:模範六法(06年度版)には「旧商法」掲載あり。

昨年(05年)に商法が全面的に改正されたのを機にすべて口語体に変身しました。(何と60年以上かかったそうです)

私が学習していた頃は漢字とカタカナの読みにくいもので、最初は「法律の世界は古色蒼然」と半ば感動し、半ばあきらめ!の境地でしたが、「慣れ」とはおそろしく、知らず知らずにその古色蒼然の文体に馴染んでいましたね。(笑)

六法の口語体は、ご存知の通り、憲法が一番最初。(敗戦・終戦→憲法改正→口語体)

そういえば、憲法をめぐって、以前、「英文が日本国憲法の原文であり、正文と呼ぶべきものでは?」という質問がありました。
つまり、日本語の憲法はその訳文にすぎない、と。  

注:日本は、GHQ、マッカーサー草案を基に、大日本帝国憲法を改正する形で日本国憲法を公布(11月3日=文化の日)。  

さらに注:GHQ=general headquarters=日本を占領した連合国軍の総司令部、MacArthurはその最高司令官。

うむむぅ、歴史的経緯からくるか。
おっと^_^; 帝国議会の議決を経て憲法が改正されたわけですから、日本文が正文です。

この点、最近英文で登場してきた法律には「日本文が正文」の類いの注書きがありますね。(^_^)

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模範六法〈2007(平成19年版)〉

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(おまけ)特許庁から、商標の「類似商品・役務審査基準」の改正が発表されました。詳細はこちらへどうぞ。


時効の起算点

2006年10月13日 | 法律

昨日(10月12日)に、赤ちゃん取り違えによる損害賠償請求につき、東京高裁で東京都(都の産院で出生、取り違え)に対して2千万円の損害賠償金の支払を命じる判決が出ました。(DNA鑑定により両親が実の親ではなかったことを知ったXとその育ての親が、当時の産院を経営していた東京都を訴えた。)

ここで時効の起算点の話をちょこっと(^_^)

 時効には①消滅時効と②取得時効がありますが、本件では①の消滅時効が問題になります。

 債権の消滅時効(10年、民§167Ⅰ)の起算点=債務の履行を求めることができるとき。このときから時効が進行=10年という期間のカウントが始まります。

 本件で問題になったのは→契約不履行による損害賠償請求の時効は成立しているか?=その起算点はいつか?(注:ここで「契約」とは、赤ちゃんを取り違えずに、親に引き渡すというもの)

<第一審>は、時効の起算点を

親が産院を退院した時(1958年)と判断=10年の時効が既に成立=契約不履行に基づく損害賠償請求を認めず。

これに対して、<第二審>(昨日の高裁)は、
時効の起算点を

Xが血液検査で親子関係がない疑いを深めたとき(1997年)=10年の時効はまだ成立していない=損害賠償請求を認める。

このように、「消滅時効の起算点=債務の履行を求めることができるとき」をどのように捉えるかによって、時効の成立につき180度違う結論に達します。(起算点を動かすことで結論がコロっと変わるので、「起算点はいつか?」はとても重要な問題です。)

 不法行為(赤ちゃんを取り違えて引き渡した)に基づく損害賠償については、第一審、第二審共に、20年が経過しており、損害賠償請求は認めず。(民§724)

民§724 不法行為による損害賠償請求権の消滅

民法は、損害賠償請求権の時効による消滅につき、不法行為に関しては特別規定を設けており

「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時」から3年間、「不法行為の時」から20年を経過すれば消滅する、としています。

ちなみに、前半の3年間という期間の性質は時効期間であり、後半の20年間の期間の性質は除斥期間と解されています。(注:消滅時効と除斥期間とは性質が異なります。)
除斥はじょせきと読むのですが、変換ミスで?除籍期間というのを読んだことがありますのでご注意下さい(笑)

 素朴な感想

時効制度の意義にはいくつかありますが、そのひとつである

「権利の上に眠っている者は法の保護に値しない」からすれば、

出生後(病院側の過失により)取り違えられたということをXが知った時から時効のカウントが始まる、という考える方が自然であり、妥当だと思いますが、皆さんはどう思われますか?

 


動物の占有者の責任

2006年08月23日 | 法律

地裁レベルですが、

動物の占有者の責任(民法718条1項)に基づく損害賠償請求につき、原告Xが骨粗しょう症であったことを理由に、損害額が減額されるという判断が出ました。

その前提として、民法718条1項についてサラッと。

動物による加害につき、動物の所有者ではなく、動物の占有者であると規定しています。

動物による加害を直接制御できる者に責任を負わせようとする趣旨からです。

今回は、原告X(60代女性)が公園を散歩中、Yの連れていた大型犬がYの手元を離れ(綱がYの手から離れた)[=Yの過失]、Xに接近し、Xが転倒して骨折した、[=X傷害]という事例です。(実際に犬が接触したのかどうかについて争いがあるほか、その他事実関係は割愛)

[Yの過失行為]と[X傷害」という結果につき、因果関係(原因→結果の関係)は認められるが、原告Xの骨粗しょう症が寄与しており、その分(請求額の2割)減額する、と判断したわけです。

 本件の詳細を知りたい方は、こちら(PDF)。

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ところで、

「所有」と「占有」の区別は大丈夫でしょうか?

日英クラスの生徒さんは、「死者の占有」についてお話したので、すぐピンときますよね?
注:「死者の占有」…(簡単に言えば)死体から物を取った場合、窃盗か占有離脱物横領か?

  


個人情報保護というけれど

2006年08月09日 | 法律

今や、適用場面がちょっと違うのでは?と思うくらい、「個人情報保護」が叫ばれています。

でも、ちょっとここで考えてみると

・(自分の)個人情報を守れ守れ、とは言うけれど、他者の個人情報を結構気軽にどこかに開示していませんか?

・どこかの名簿に自分の情報を載せるとき、そのリスク(if any)は承知していますか?

翻訳会社等については、

・「クライアントの情報は漏らすな、しゃべるな」というのはいいとして、翻訳者の情報はちゃんと守っているのでしょうか?(社員やアルバイトの教育を含む)

・翻訳者の側から「情報開示についての事前の同意」を得ることなしに、その個人情報を他に流すことはないでしょうか?

    

「個人情報を守れ」と相手に主張するだけでなく、自分も他者の情報は守らなければならない、ということをすっかり忘れているのではないか?と思うことにぶちあたり、びっくりするやら、何やらで・・・

 

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産業財産権4法の改正

2006年06月09日 | 法律

意匠法等の一部を改正する法律(法律第55号)=産業財産権4法(意匠法、商標法、特許法、実用新案法)を一部改正する法律が2006年6月7日公布されました。

権利保護と模倣品対策を強化するのが目的です。

以下、さらーっと(^_^)

  • 意匠法 (デザインの保護)  

   存続期間が登録から15年→20年に延長。  
   デザインの保護対象を拡大し、操作画面も対象に。
   デザインのバリエーション等の出願期限が延長。  

  • 商標法 (ブランドの保護)  

   小売業者等が使用する商標も役務商標として保護。  
   社団も団体商標の主体に。  

  • 特許法 (発明の保護)  

   出願に複数の発明が含まれる場合に分割出願できる時期を追加。 
   最初に外国語で日本に出願した場合、後日提出の日本語翻訳文の提出期限を延長。  

  • 模倣品対策  

詳しくは⇒法令改正のお知らせ(特許庁)

 


業務上過失致死

2006年03月30日 | 法律

● 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者→5年以下の懲役 OR (1)禁固 OR(2) 50万円以下の罰金。(刑§211)

OR(1)・・・若しくは

OR(2)・・・又は

です。「若しくは」と「又は」の使い方大丈夫ですか?

懲役と禁固で1つのグループ(身体の拘束)、さらに罰金(お金)とあわせて刑罰という広いグループができています。

訳し分けに悩む人には、分かりやすい例だと思います。

● 医師の過失行為と患者の死亡との間に因果関係が認められない=過失行為がなくても死んでいた(から無罪)、という論法は、法律論ではなく感情論、特に家族の立場に立つと到底納得できないものでしょう。

たとえ「○月○日○時、死亡」という結果が変わらなくても、

手を尽くしてその結果になるのと、

途中に過失行為が介在するのとでは、

その事実を受け入れなければならない家族にとっては大きく違います。
(注:この場合、「行為」には、すべきことをしない場合(=不作為)も含みます)

この他、法律上、業務の意味、なぜ普通の過失より重く罰せられるのか等、論点はあるのですが、今回は省略です(^_^) 

 

 

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不正競争防止法

2006年03月24日 | 法律

日本では、営業秘密(trade secret)は不正競争防止法という法律で守られています。(国、州によっては、トレードシークレット保護法等別個の法律で保護するところもあります)

実は、この営業秘密(=企業秘密)、保護対策が外国に比べて日本は遅れており、昨年05年11月に保護を強化するために同法が改正、施行されました。

● 営業秘密って何? 3つの要件を簡単に見てみましょう。

  1. 秘密管理性…客観的に秘密として管理されていること。例えば、単に、「これは秘密」と机の引出しに入れておくだけではダメで、鍵をかけて保管することが必要です。
     
  2. 有用性…(これも客観的に)事業活動に有用な技術上OR営業上の情報であること。例えば、ノウハウや顧客リストなど。また、「こうやったら脱税できる」といった反社会的なものは対象外です^_^;
     
  3. 非公知性…公然と知られていないこと。刊行物などに掲載されていて、誰でも入手できるものはダメです。

● この営業秘密の保護を強化するための改正のポイントは、

  1. 営業秘密を国外で使用OR開示した場合の刑事罰の導入
  2. 退職者に対する刑事罰の導入(在職中に約束し、退職後に提供する場合など)
  3. 秘密の二次取得者に対する刑事罰の導入(部下に他社の秘密を取得させたり、転職者に秘密を持ち込ませたり…)
  4. 法人に対する刑事罰の導入

 

例えば、大手メーカーや軍事産業に携わっていた技術者などの中途採用の面接で、秘密を聞きだし、入社後にその知識やノウハウを利用して製品開発をすると刑事罰の対象となります。

詳しくは、経済産業省のHPをご覧下さい。

    

このあたりは、日本より外国の方が危機感が強く、以前から契約書には相当細かく盛り込んでいます。(SOLICITATION)