英文の受動態を訳すとき、
① そのまま受動態として訳す
② 能動態に変換して訳す
が考えられますが、受動態の文章中、行為主体にあたる "by~" が省略されている場合は注意が必要です。
即ち、訳文で「行為主体を補う」ことの適否。
実はこの基準も分野によって異なるので、すべてを網羅することはできませんが、
少なくとも法律翻訳では、権利義務の主体など正確性が特に重視されるため、基本的に訳者は原文にないものを勝手に補うことは控えます。
例えば、解除条項などで
This Agreement may be terminated.
とあると、学習者が能動態に変換して訳す場合、"by~" の部分を推測して訳文に入れてくる傾向があるのです。学習経験が浅ければ浅いほど、その割合は多くなります。(注:補うことが絶対に不可というわけではありません。詳細は授業に譲ります。)
仮に、これが売買契約だとすると、たいてい「買主は、~」と補足してきます。
確かに、解除権があるのは買主かもしれませんが、売主にも認められる場合もあります。
補足した語が外れていた OR 不正確だった場合を考えると・・・。
従って、解除権を行使できる主体が書いていない以上、「本契約は、~」とします。
さらに、解除権は、違反していない方の当事者に与えられるのが普通ですが、違反した方の当事者にも解除権を認める契約も実際にはあるのです(@_@)。要は、力関係か…(-_-;)
事実(真実)は小説より奇なり
(Truth is stranger than fiction. ---Byron)
従って、訳者たるもの、勝手な思い込み、憶測、推測は慎まねばなりません。
原文にない言葉を訳者が勝手に補うことにより、「翻訳」の範疇を超えて「創作」の域に入ってしまうことも間々あります。
創作訳については、2006年4月4日の記事「長文読解のコツ」にも書いたのですが、該当部分を引用します。
例えば、"note"。 見た途端「手形」だと思い込み、話を強引に手形の世界にひっぱってしまう・・・実は、単にメモだったりすることもあるわけです。
受動態が出てきたら、ステレオタイプに「能動態に変換して訳す」または「受動態のまま訳す」と決め込まず、どちらが適切か判断することをお忘れなく。