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ソースカラ
舛添要一氏が東京都知事に就任してから12日で1年。東京五輪の会場見直しや「都市外交」に精力的に取り組む一方、介護や保育など福祉分野にも目配りし、都議会からは共産党も含め「及第点」との評価を受け、“オール与党”ともいえる態勢をすでに構築した。バランスの取れた「万能型の知事」との評価の一方、際だった独自色には欠ける「器用貧乏」との指摘もある。舛添都政の1年を振り返る。
■「評価は他人がするもの」という言葉ににじむ自信
「評価というのは他人がするもので、自分がすべきものではない」。就任1年を控えた6日の会見で、舛添知事はこの1年間の都政に対する自己評価を問われて、こう切り返した。
だが、その裏には自信がにじむ。「東京五輪について競技施設の見直しということで、2000億円の経費削減などをやりました」。その直後に飛び出した言葉は、自らの成果を強調するものだった。
舛添知事は昨年6月、競技施設の見直しを表明。突然の方針転換に「話が違う」と競技団体から反発もあったが、バドミントンなどを行う予定だった「夢の島ユース・プラザ」など3施設の新設を取りやめ、建設資材の高騰などで膨らんだ総額4584億円とみられる整備費を2576億円にまで削減した。今後、さらに見直しを加え、「後は少しパラリンピックの方にも人とコストをかけて、これも遅れないようにやっていきます」と意気込む。
■「怒鳴らないので助かる」との都幹部の声も
舛添知事のこの1年に対する都幹部の評価はさまざまだ。
「飲み込みが早く、施策について、説明にかかる時間が、以前の半分で済むようになった」との声もあれば、「頭がいいから自分でなんでもでき、人の意見をあまり聞かない」との声もある。
複数の幹部の話によると、「記憶力がとにかくいい」「怒鳴らないので助かる」というあたりは共通しているようだ。
舛添知事は、政治資金をめぐる事件で辞職した猪瀬直樹前知事に代わり、急遽(きゅうきょ)行われた昨年2月の都知事選で初当選した。そのため就任時にはすでに平成26年度当初予算が編成済みで、自ら手を加えられる部分が少なかったといい、1年目は“舛添カラー”を出せる部分は限られた。
ある幹部は「オールマイティー型の知事ともいわれるが、独自色が出しにくい分、堅実な都政運営をしたことが、いい評価につながったのでは」と話す。
■中韓との都市外交「隣の姉妹と会わないのは異常」
そうした中、舛添知事が熱心に取り組み、独自色が鮮明になったものの一つとして「都市外交」が挙げられる。これまで6回の海外出張をこなし、計5カ国に訪問。五輪への協力要請などに取り組んだ。
ただ、就任直後から続いた外遊の連続に、昨年9月の都議会本会議で、自民党の村上英子幹事長は「知事の海外出張が、それほど優先順位が高いとは思えない」と苦言を呈した。北京、ソウルの訪問では歴史認識に関する発言への対応をめぐり、「なぜ地方自治体が外交をやるのか」と都に2万件を超える意見が寄せられ、その大半が批判的となるなど、独自色がむしろ“裏目”に出る事態を招いた。
舛添氏は会見で、都市外交について「オリンピック・パラリンピックを控え、世界中の都市、国々から協力を得なければ、この成功はおぼつかない。成功を得るために外交をやるのは当然のこと」と意義を強調。東京都の姉妹友好都市の北京、ソウルへの知事の公式訪問が18年ぶりだったことを引き合いに、「みなさん方の姉妹、兄弟がいて、お隣に住んでいて18年間会っていませんというのは異常と思いませんか。異常ですね」と訴えた。しかし、ただでさえ成果の見えにくい外交分野において、就任1年では「足元をすくわれかねない」との指摘もある。
■共産からも「施策の拡充が図られている」と高評価
都議会での評価は高い。興味深いのは、都議会共産党の反応だ。
「知事と一緒に写真を撮ったのは初めてだ」。昨年12月の定例議会終了後、恒例となっている各会派への知事のあいさつ回りで、舛添知事から写真撮影を求められた共産都議は思わず笑みをみせた。
かつて石原慎太郎元知事から「何でも反対する」と揶揄(やゆ)された共産。これまでは一言声をかけるだけの儀礼的なものだったが、舛添氏のフレンドリーな対応に「今までこんなことはなかった」と喜んだ。
舛添知事が初めて編成を手がけた来年度の当初予算案についても、共産党が重視する非正規雇用の正社員転換や保育・介護分野の拡充に向けた予算付けがされたことから、共産は大型開発などを一部批判しつつも、「都民の要求を反映した施策の拡充が図られている」とするコメントを出した。「共産からこれほど前向きなコメントが出るのは異例だ」と、議会事務局のベテラン職員も驚くほどの内容という。
ほかの主要会派からも「多岐にわたる重要課題に積極的に対応」(自民)、「知事の積極的な姿勢が表れている」(公明)、「私たちの主張におおむね沿うもの」(民主)といったコメント文が出され、いずれの会派とも目立った対立がない、近年の知事の下で見られなかった“オール与党”ともいえる状態だ。
議運委員長も務める自民の村上幹事長も「いい形で(知事と議会が)コミュニケーションを取れており、『こういう形でやりたい』と事前に相談をしてきてくれる。議会と都の動きは良くなっている」と述べる。
■都税収入回復で「誰でも組める予算」との声も
一方、こうした評価は、都の財政的なゆとりなしには勝ち得なかったとする指摘もある。
舛添知事は来年度の当初予算案で、「水素社会」実現へ燃料電池車の購入者らへの補助金支出▽待機児童ゼロに向けた保育園施設や保育士の確保-など、肝いりの分野に重点配分。また、中小企業支援、非正規雇用者対策、木造住宅密集地域対策など、福祉から経済、防災まで幅広い分野に予算配分をした。予算規模は前年度比4・3%増の6兆9520億円に及んだ。
舛添知事は「国に先んじて、いいことはどんどんやっていく」と意気込むが、あるベテラン都議によると、就任前から進められている施策、進める予定だった施策のモデルチェンジが多いといい、「まだまだ舛添カラーが出ていない。こしょうを2ふり、3ふりしただけで前と変わらない」。
また、来年度はアベノミクスによる景気回復と消費税増税を追い風に、都税収入が7年ぶりの5兆円台回復見込みという恵まれた状況を挙げ、「これだけ財政が良かったら、こうしたバランス型の予算配分は誰でもできる。驚きがない」と述べる。
都の財政は景気の状況に左右されやすく、今後、悪化の可能性もあり、バランスのとれた「万能型の知事」が「器用貧乏」で終わるのか、今後の手腕が問われそうだ。
ソースカラ
舛添要一氏が東京都知事に就任してから12日で1年。東京五輪の会場見直しや「都市外交」に精力的に取り組む一方、介護や保育など福祉分野にも目配りし、都議会からは共産党も含め「及第点」との評価を受け、“オール与党”ともいえる態勢をすでに構築した。バランスの取れた「万能型の知事」との評価の一方、際だった独自色には欠ける「器用貧乏」との指摘もある。舛添都政の1年を振り返る。
■「評価は他人がするもの」という言葉ににじむ自信
「評価というのは他人がするもので、自分がすべきものではない」。就任1年を控えた6日の会見で、舛添知事はこの1年間の都政に対する自己評価を問われて、こう切り返した。
だが、その裏には自信がにじむ。「東京五輪について競技施設の見直しということで、2000億円の経費削減などをやりました」。その直後に飛び出した言葉は、自らの成果を強調するものだった。
舛添知事は昨年6月、競技施設の見直しを表明。突然の方針転換に「話が違う」と競技団体から反発もあったが、バドミントンなどを行う予定だった「夢の島ユース・プラザ」など3施設の新設を取りやめ、建設資材の高騰などで膨らんだ総額4584億円とみられる整備費を2576億円にまで削減した。今後、さらに見直しを加え、「後は少しパラリンピックの方にも人とコストをかけて、これも遅れないようにやっていきます」と意気込む。
■「怒鳴らないので助かる」との都幹部の声も
舛添知事のこの1年に対する都幹部の評価はさまざまだ。
「飲み込みが早く、施策について、説明にかかる時間が、以前の半分で済むようになった」との声もあれば、「頭がいいから自分でなんでもでき、人の意見をあまり聞かない」との声もある。
複数の幹部の話によると、「記憶力がとにかくいい」「怒鳴らないので助かる」というあたりは共通しているようだ。
舛添知事は、政治資金をめぐる事件で辞職した猪瀬直樹前知事に代わり、急遽(きゅうきょ)行われた昨年2月の都知事選で初当選した。そのため就任時にはすでに平成26年度当初予算が編成済みで、自ら手を加えられる部分が少なかったといい、1年目は“舛添カラー”を出せる部分は限られた。
ある幹部は「オールマイティー型の知事ともいわれるが、独自色が出しにくい分、堅実な都政運営をしたことが、いい評価につながったのでは」と話す。
■中韓との都市外交「隣の姉妹と会わないのは異常」
そうした中、舛添知事が熱心に取り組み、独自色が鮮明になったものの一つとして「都市外交」が挙げられる。これまで6回の海外出張をこなし、計5カ国に訪問。五輪への協力要請などに取り組んだ。
ただ、就任直後から続いた外遊の連続に、昨年9月の都議会本会議で、自民党の村上英子幹事長は「知事の海外出張が、それほど優先順位が高いとは思えない」と苦言を呈した。北京、ソウルの訪問では歴史認識に関する発言への対応をめぐり、「なぜ地方自治体が外交をやるのか」と都に2万件を超える意見が寄せられ、その大半が批判的となるなど、独自色がむしろ“裏目”に出る事態を招いた。
舛添氏は会見で、都市外交について「オリンピック・パラリンピックを控え、世界中の都市、国々から協力を得なければ、この成功はおぼつかない。成功を得るために外交をやるのは当然のこと」と意義を強調。東京都の姉妹友好都市の北京、ソウルへの知事の公式訪問が18年ぶりだったことを引き合いに、「みなさん方の姉妹、兄弟がいて、お隣に住んでいて18年間会っていませんというのは異常と思いませんか。異常ですね」と訴えた。しかし、ただでさえ成果の見えにくい外交分野において、就任1年では「足元をすくわれかねない」との指摘もある。
■共産からも「施策の拡充が図られている」と高評価
都議会での評価は高い。興味深いのは、都議会共産党の反応だ。
「知事と一緒に写真を撮ったのは初めてだ」。昨年12月の定例議会終了後、恒例となっている各会派への知事のあいさつ回りで、舛添知事から写真撮影を求められた共産都議は思わず笑みをみせた。
かつて石原慎太郎元知事から「何でも反対する」と揶揄(やゆ)された共産。これまでは一言声をかけるだけの儀礼的なものだったが、舛添氏のフレンドリーな対応に「今までこんなことはなかった」と喜んだ。
舛添知事が初めて編成を手がけた来年度の当初予算案についても、共産党が重視する非正規雇用の正社員転換や保育・介護分野の拡充に向けた予算付けがされたことから、共産は大型開発などを一部批判しつつも、「都民の要求を反映した施策の拡充が図られている」とするコメントを出した。「共産からこれほど前向きなコメントが出るのは異例だ」と、議会事務局のベテラン職員も驚くほどの内容という。
ほかの主要会派からも「多岐にわたる重要課題に積極的に対応」(自民)、「知事の積極的な姿勢が表れている」(公明)、「私たちの主張におおむね沿うもの」(民主)といったコメント文が出され、いずれの会派とも目立った対立がない、近年の知事の下で見られなかった“オール与党”ともいえる状態だ。
議運委員長も務める自民の村上幹事長も「いい形で(知事と議会が)コミュニケーションを取れており、『こういう形でやりたい』と事前に相談をしてきてくれる。議会と都の動きは良くなっている」と述べる。
■都税収入回復で「誰でも組める予算」との声も
一方、こうした評価は、都の財政的なゆとりなしには勝ち得なかったとする指摘もある。
舛添知事は来年度の当初予算案で、「水素社会」実現へ燃料電池車の購入者らへの補助金支出▽待機児童ゼロに向けた保育園施設や保育士の確保-など、肝いりの分野に重点配分。また、中小企業支援、非正規雇用者対策、木造住宅密集地域対策など、福祉から経済、防災まで幅広い分野に予算配分をした。予算規模は前年度比4・3%増の6兆9520億円に及んだ。
舛添知事は「国に先んじて、いいことはどんどんやっていく」と意気込むが、あるベテラン都議によると、就任前から進められている施策、進める予定だった施策のモデルチェンジが多いといい、「まだまだ舛添カラーが出ていない。こしょうを2ふり、3ふりしただけで前と変わらない」。
また、来年度はアベノミクスによる景気回復と消費税増税を追い風に、都税収入が7年ぶりの5兆円台回復見込みという恵まれた状況を挙げ、「これだけ財政が良かったら、こうしたバランス型の予算配分は誰でもできる。驚きがない」と述べる。
都の財政は景気の状況に左右されやすく、今後、悪化の可能性もあり、バランスのとれた「万能型の知事」が「器用貧乏」で終わるのか、今後の手腕が問われそうだ。