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5巻9-11章

2023-08-18 04:40:35 | 世界史

【9章】

元老院の指導者たちは次のように述べた。「不名誉な事件の原因が司令官たちの失敗であろうと、単なる不運であろうと、執政副司令官をすぐに交代させねばならない。翌年の執政副司令官をの就任を早めるまで待つべきだ。10月1日までに新しい執政副司令官を選ぶべきである」。セルギウスとヴェルギニウス以外の執政副司令官たちはこの提案を了承したが、奇妙なことに、元老たちが辞任させたかった二人が屈辱的な提案に抗議し、拒否権を行使した。二人は通常の任期が終わる12月13日まで辞任しないと宣言した。この時護民官が突然二人を批判し始めた。二つの身分の間の関係が良好であり、国家が繁栄していた時、護民官はおとなしくしていたのであるが、彼らは突然生き返り、「元老院の決定に従わない者を、投獄せよ」と言った。

執政副司令官の一人、C・セルヴィリウス・アハラが護民官に反論した。「たった今護民官が述べた脅迫について、一言申し述べたい。彼の脅迫には法的根拠がないだけでなく、そもそも彼はそれを実行する勇気がない。執政副司令官元老院に挑戦したのは間違いだが、これは我々執政副司令官の問の問題である。護民官が口を出して、騒ぐべきではない。我々の同僚二人が考え直し、元老院の決定を受け入れるのが望ましいが、二人があくまで意地を張るなら、私は直ちに独裁官を任命する。独裁官は二人を罷免するだろう」。

セルヴィリウス・アハラの意見は、すべての人に承認された。護民官の悩ましい干渉を受けずに、二人の最高官に効果的に圧力をかける方法が見つかり、人々は喜んだ。全員の一致した意見に屈し、反抗的な二人は元老院の決定を受け入れた。執政副司令官の選挙がおこなわれ、10月1日新しい執政副司令官が就任した。

【10章】

新しく選ばれた執政副司令官は、L・ヴァレリウス・ポティトゥス(4回目の就任)、M・フリウス・カミルス(2回目の就任)、マニウス・アエミリウス・マメルクス(3回目の就任)、クナエウス・コッルネリウス・コッスス(2回目の就任)、カエソ・ファビウス・アンブストゥス、ユリウス・ユルスの6人だった。彼らの任期中に、ローマの内外で多くの事件が起きた。複数の戦争が同時に起きた。ローマはヴェイイ、カペナ、ファレリーを相手にして戦っただけでなく、アンクスールの奪還のため、ヴォルスキとも戦った。市民は徴兵に応じるだけでなく、新たに戦争税が導入され、彼らの負担が増した。護民官の一部を選挙によらず、護民官が任命するすることについて、論争になった。数年前執政官を務めた二人が裁判にかけられ、人々は興奮した。新しい執政副司令官の最初の任務は徴兵を実行することだった。若年兵に加えて、老兵も徴兵された。老兵は首都の防衛にあてるためだった。しかし、兵士の数が増加したので、兵士に払う給料の合計も増大した。出征しない市民には戦争税が課せられたが、市民は払うのを嫌がった。なぜなら、彼らは出征しないとはいえ、国家の召使として、首都の防衛に従事していたからである。市民が大きな不満を持っている時に、護民官が市民の不満をあおる演説をした。

「兵士に給料を支払う真の目的は、戦争税により平民の半分を破産させ、残りの半分を軍役により破滅させることである。ヴェイイとの戦争は三年目に突入しているが、司令官たちはわざと不手際な指揮をして、戦争を長引かせている。今や敵は四つの国となり、新たな徴兵により、少年や老人が家族から切り離された。ローマは夏にも冬にも戦争を続け、惨めな平民は休む暇さえない。そのうえ、彼らは戦争税を払わなければならない。軍の労役に疲れ果て、傷を負い、中でも老兵にとって過酷な任務を終え、家に帰ると、彼らの畑は世話する人が不在で荒れ果てている。収入源の作物がないのに、戦争税を払わなければならない。戦争税は兵士に支払われる給料の数倍だ。借りたお金の数倍を支払うのと同じだ」。

兵役と戦争税に加えて、もっと深刻な心配事を抱え、平民は護民官に立候補する余裕がなく、選挙で平民の当選者は少なかった。定数割れになったので、不足分を当選者が任命することを、貴族が要求したが、平民が反対した。貴族の要求は無理筋だったが、トゥレボニウス法の権威を弱める良い機会だったので、貴族が影響力を行使し、押し切った。

(日本訳注:紀元前448年のトゥレボニウス法は護民官に欠員ができた場合、選挙によらず護民官の任命により補充すること禁じた。)

【11章】

皮肉なことに、クナエウス・トゥレボニウスが護民官に選出された。彼はトゥレボニウス法の守護神として行動した。彼がトゥレボニウス家の伝統に従い、家名を大切にするのは当然だった。クナエウスは興奮した調子で述べた。

「元老院は以前護民官の地位を攻撃したが、失敗した。今回執政副司令官による攻撃が成功した。トゥレボニウス法は無視された。定数割れとなった護民官を補充する際、選挙をせず、当選者が勝手に任命した。これは貴族の命令によるものである。護民官になるのは貴族か、貴族の取り巻きだけになった。貴族の横暴はここまで進んだ。神聖な法律が平民から奪われ、護民官の威信と権限は失われた。これを実現したのは貴族の手練手管だが、私以外の護民官が卑劣で悪賢く、貴族を助けたからだ」。

今や人々の怒りは元老院を焼き討ちしかねない勢いとなり、同罪の護民官と彼らが任命した護民官にも同様の怒りが向けられた。同罪の護民官の中の三人、P・クラティウス、M・メティリウス、M・ミヌキウスは命の危険に震え上がり、人々の怒りをなんとかそらそうとした。その結果彼らは任期途中で罷免された執政副司令官を裁判にかける準備をした。罷免された執政副司令官の中でも、評判が悪かったのはセルギウスとヴェルギニウスであり、裁判の日が定められた。平民の怒りと憎しみはこの二人に向けられ、トゥレボニウス法を踏みにじった護民官は怒りをかわすことに成功した。護民官はセルギウスとヴェルギニウスの責任を追及した。

「戦争が長引いていることや、戦争税を払うことに負担に感じている人、またはヴェイイでの敗北を嘆いている人や子供、兄弟、親戚を失った人はセルギウスとヴェルギニウスの処刑を見る権利がある。二人は人々の嘆きと国家全体の悲しみにたいして責任がある。弁護人は二人の犯罪をごまかそうとするだろうし、検事も犯罪を明確に説明できないかもしれない。というのは、二人は互いに相手に責任をなすり付けようとしているからである。セルギウスは戦場から逃亡した、というヴェルギニウスの主張に対し、セルギウスは次のように反論している。『ヴェルギニウスは援軍を送らなかった』。

正気とも思えない二人の馬鹿げた行動は、実は二人の謀略であり、貴族全員がこれを黙認したようだ。わざとヴェイイ兵に出撃のチャンスを与え、攻城のための構築物に火をつけるのを許したのだ。二人はローマ軍を裏切り、ローマ軍の陣地をファリスク人に明け渡した。捕虜となったローマの若者はヴェイイで年を取り、ローマの市民会議には出席者が減り、護民官は市民の支持を得るのが困難になる。元老院の一致した決定に対し、護民官は抵抗できなくなり、土地の分配など、平民の利益となる法案を提出できなくなるだろう。元老院は既にセルギウスとヴェルギニウスを有罪と判断した。二人の同僚の執政副司令官たちやローマの人々も二人の責任を断定している。元老院が二人を罷免すると、二人は拒否した。同僚の執政副司令官たちが独裁官を任命すると脅して、やっと二人を辞任に追い込んだ。ローマ市民は翌年の執政官の就任を早めることに同意した。通常、執政副司令官の選挙は10月1日で、就任は12月13日であるが、今回は選挙の終了後、同日に就任した。二人がこの先二か月も司令官の地位に留まるなら、ローマは破滅するだろう。一方セルギウスとヴェルギニウスは各方面から断罪されたにもかかわらず、自信をもって裁判に臨んだ。任期終了の二か月前に地位をはく奪されたことにより、自分たちは十分処罰されたのだから、罪は償われた、と彼らは空想した。地位を奪われたのはこれ以上失敗を重ねるのを防ぐためであり、処罰ではない。二人はこのことを理解できなかった。任期の終了を二か月早めたことが処罰なら、何の罪もない、二人以外の執政副司令官たちも処罰されたことになる」。

護民官は話を続けた。

「市民の皆さん。ヴェイイの城門の前で、ローマ軍が窮地に陥り、慌てて逃げだした時のことを思い出してください。傷を負った兵士たちは恐怖で逃げだし、自分たちの将軍を呪った。敗北したローマ兵は不運を恨むか、神々を呪うのが普通だ。

この恐るべき事件を知った時、我々は何と思っただろう。あの日、すべての市民が L・ヴェルギニウスとマニウス・セルギウスを呪った。彼らの立派な家や財産を呪った。だから、二人を許してはならない。市民の権限を行使すべきだ。神々は自ら裁くことはしないが、傷ついた人間に対し、復讐の機会を与える」。


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