道々の枝折

好奇心の趣くままに、見たこと・聞いたこと・思ったこと・為たこと、そして考えたこと・・・

鉄道旅行

2019年07月22日 | 旅・行楽
旅行好きの妻はこの10年ほどの間に
鉄道の旅に精通し、鉄路が通じていればそれを辿って何処までも行ってみたいという、大それた願望を抱いている。知らない土地での車の運転は危険、航空機はアクセスと搭乗の手続きが煩わしい、船は遅い、と鉄道以外の交通手段を難じる。旅の手段は鉄道が最善と心得ているらしい。鉄道のダイヤの正確無比なところが、当人の几帳面な気質に合うようだ。JR各社の本線と支線、私鉄線、第三セクター鉄道などを乗り継いで、予定時刻にピタリと目的地駅に着けるのが嬉しいようだ。
妻の駆け巡り鉄道旅行には、JRの営
業戦略が大きく寄与している。ほかならぬフルムーン夫婦グリーンパスという、JR旅客会社で発売する、熟年夫婦を対象とした乗り放題特別企画乗車券である。2人の年齢合計が88歳以上の夫婦でないと購入できない。また、新幹線の「のぞみ」と「みずほ」は乗車できない。

以前は夫婦と偽って愛人とチャッカリこれを利用する不埒な熟年が跡を絶たなかった。業を煮やしたJRがしばらく前から窓口での本人確認を厳格にするようになった。フルムーンの趣旨に反するフリンムーンは放置できないのだろう。期間は5712日で、JR各社の繁忙期は利用できない。

「全国鉄道旅行」という折り畳み地図と、スマホの乗換アプリを前に、路線ごとに快速、特別快速、特急の運行時刻を確かめ、時間の無駄なく乗り継ぐ接続をそれは綿密に調べ抜く。粘着気質というのだろうか?計画の策定から予算・切符の手配・予約・記録・決算まで全て自分がやらないと気が済まない。こちらは当人任せで何もすることがない。

かつては、綿密極まりない登山計画を策定して、山仲間を閉口させた私も、今では一切妻の計画に口を挿し挟むこともなく付き従う。仕事を罷めると、どこの家庭でもリーダーは妻君になる。

ただ困るのは、チケットの紛失を惧れる妻が、旅の間中私のチケットを押えてしまうこと。一旦改札口を入ると、以後それまでと違う特殊な環境に置かれることになる。

鉄道施設内で切符を持たずに行動する人間は、扱いは丁寧でも準犯罪者のように看做される。それが嫌なので、常のように自由気ままに行動するわけにはいかない。連絡通路やホームの雑踏の中で、速足の妻を見失うまいと小児のように必死に付き従うのは、あまり気分の良いものではない。日頃勝手気儘に動き回る多動性障害気味の亭主を、飼い慣らした犬のように従順に随え意のままに指図し旅をするのは、欣快この上ないに違いない。日常溜まった亭主への鬱憤を、発散するには絶好の機会だろう。本当はそれが目的で、乗り換えが多い鉄道旅を企画したがるのかも知れない。

ただし宿や食事の店を選ぶのは、亭主の役割になっている。この面での私の勘働きには、妻も一目置いている。知らない街で当てずっぽうに店を選んで、あまり失敗したことがない。ネットのグルメ情報はほとんど参照しないし、レビューの評価などもまったく見ない。多くの情報のなかから最善を選ぶという考えをもっていないから、失敗を恐れず直感に頼って見ず知らずの店に入る。知らない土地で万事満足しようなどとははじめから思っていない。もてる情報が決定的に乏しいからだ。失敗しても、自分の判断で事を決める自由があるから旅は楽しい。

頼りにするのは、地元の人の意見と店の立地・外観だけ、またそうするしか手だてがない。ダメだった時には、それはそれで諦める。それが旅を印象づけることになる。旅は行先=ポイントだけが目的ではない。ポイントとポイントの間の経過に、楽しみの種が満載されている。

好いことづくめの無難な旅を求めるなら、ツアーに参加するのが一番だろう。目的地観光のウエイトが高い場合は、ツアーほど好いものはない。ツアーか個人旅行かではなく、旅の目的により、別けられるものだろう。

かつて信州上田の和田宿で行き暮れ、六文銭の軒瓦と見越しの松の渋い外観に欺かれて最悪の宿に泊まる体験をしたことがある。夜中に大勢の人が集まり、団扇太鼓を叩いて祈祷を始めたのだ。何か妙な信仰集団に違いなく、不気味な祈祷と太鼓の音で、夜が明けるまでまんじりともしなかった。おまけに朝食の場には猫が出没。猫は嫌いではないが、泊り客の膳の周りをうろつかれては、衛生環境に不安を覚え食欲を失う。その宿のことは、我々には長く記憶に残る事件だった。以来、ホテル・旅館の情報は、専らレビューを尊重し参照することにしている。

とまあこんな風に、弥次喜多道中をしてきた。老いた夫婦にとって共通の楽しみは旅行であろう。考えてみれば、半世紀にわたる夫婦の日常もまさに弥次喜多道中、毎日互いに文句を云いながら、旅路を何とか歩んで来た。
コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« PE衣料の残党 | トップ | 宇佐神宮 »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ヒロ)
2019-07-25 09:38:01
途中なのに送信になってしまいました。
大変失礼しました。
ロボットの回答もしてないのに‥?
返信する
Unknown (ヒロ)
2019-07-25 09:42:48
すみません! 送信にはなってなく、削除みたいでした。
返信する

コメントを投稿