道々の枝折

好奇心の趣くままに、見たこと・聞いたこと・思ったこと・為たこと、そして考えたこと・・・

三遠国境の核心部

2011年05月14日 |  山歩き

毎年今頃になると、希少な花々が咲く山を訪れる。山と言っても車で一時間足らずの近場にある浜名湖北岸の低山、気軽なハイキングまたはピクニックに向いている。

総延長40キロほどある山稜の一部を、蛇紋岩の岩脈が斜めに横切っているあたりが目的地だ。蛇紋岩が風化した土壌には、一般の植物の生長を阻害する成分があるそうで、それが蛇紋岩植生といわれる固有の植物群の生育している理由らしい。蛇紋岩地帯は全国何処にでも分布している訳でもないから、そこに限って生える植物は、比較的希少なものということになる。

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沢に沿って歩き始めると、トサミズキの特徴ある葉が目につく。この木も、蛇紋岩や石灰岩などのやせ地に好んで自生する種類のひとつだ。その木の下陰で咲いているヒメハギは、うっかり見落とすほどに小さい。

歩き進むにつれキンランの花が道の両側に現れてくる。ツクバネウツギの白い花叢がそこここで目を惹くが、これは特に蛇紋岩地帯固有の木ではなく、陽当たりがよい谷筋であれば生育するようだ。山側の、水がしみ出ている明るい草地には、コバルト色のハルリンドウの花が点々と咲いていた。この花は、晴れていないと花を閉じて草むらに隠 れてしまう。

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昨年たまたま見つけたズミは花より蕾のほうが多かった。まだ時期が早かったのだろう。

園芸種クレマチスと同類のシロバナカザグルマの蕾が幾本か直立しているのを見て安心した。昨年は本来の自生場所で見つからず、心ない盗掘を心配していた。

登山道にさしかかると、道の両側はハルリンドウが列を成して咲き競っていた。稜線道のものは盗掘で減少する一方だが、人目につかないこのあたりでは、確実に殖えているようだ。

尾根に出ると、ハルゼミの鳴き声が急に大きくなった。稜線上は低い樹木がまばらに生えた林か蛇紋岩の塊が散らばる草地や露地が連なり、離れた場所から眺めると、高山の森林限界を超えたあたりのような特異な景観を呈している。

頂稜部から見る三州側の景色は何度見ても見飽きない。左手には、なだらかに裾をひく吉祥山(382m)、その右遠くに霞むのは本宮山(789m)、正面真北方向豊川の対岸は設楽ヶ原あたりだろう。右手は船着山(427m)でその延長線上に長篠城がある。船着山の右隣は常寒山(482m)にあたる。

眼下を俯瞰すると、素晴らしい田園の風景が拡がっている。岐阜県恵那市岩村町に、農村景観日本一を謳う場所があるが、ここからの景観もその地に劣らない。過去20年にわたって眺め続けているが、この間ほとんど景観が変わることがないのは今どき珍しい。

綺麗に耕地整理された田畑が、こちらの山裾から2kmほど先の丘陵の麓までを占め、ところどころに、林に囲われた集落の屋根の重なりが寄木のように見える。田畑をよぎる緑の帯は、用水路の両岸の並木だろう。帯は山麓一帯に点在するいくつかのため池につながっている。

向かいの丘陵の縁辺に沿う集落の前を舗装道が延び、テントウムシほどの大きさに見える車がのろのろと往来している。集落の森陰に見える大屋根は寺院のものに違いない。

稜線を北西に向へば金山(424m)・瓶割峠を経て富幕山(563m)、南西にとれば雨生山(313m)・宇利峠を経て中山峠。花や景色を見るだけでなく、脚を鍛えるためそのあたりまで往復するのはどうだろう。植物といい景観といい、このあたりは三遠国境の核心部と言えそうだ。

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