登山やハイキング、キャンプなど、アウトドアで行動すると、どうしても好ましくない自然界の生き物と接触することが多くなります。
特に夏は、これら生き物の活動のピークにあたり、アブ、蚊、ブヨ、山ビルなどに悩まされることが多いのですが、最近は、効果の高い防虫剤があって、これらの害虫を遠ざけるのは容易になりました。
また、熊や蜂、マムシなどの危険な有害生物については、注意点や対策が周知されているので、滅多に被害に遭うことはないでしょう。
ところで、普段は忍者のように葉裏や藪陰に身を潜めていて、温血動物の体温や炭酸ガスまたは振動を感知すると飛び掛かり、その血液を吸うと同時に恐ろしい病原菌を感染させる極めて危険な生き物をご存知でしょうか?
それはシュルツェ・マダニと呼ばれるマダニの一種で、国内では比較的冷涼な本州中部以北の山や高原と北海道の全域にかけて棲息し、吸血によってライム病菌といわれるバクテリアの一種を人に媒介し感染させます。
ライム病は、欧米では年間数万人もの患者が発生している感染症ですが、日本ではこれまで比較的発症例が少なく、一般にはほとんど知られていませんでした。
しかし近年、アウトドアライフが盛んになるに従い、感染する危険は増しています。登山やハイキングを好む人達は、知っておいた方がよさそうです。
病気そのものの内容と症状については、専門のサイトでお確かめいただくとして、このブログでお伝えしたいことは、この病気では診療科の選択を誤らないことが一番大切ということです。
これまで発病した人達の報告に共通しているのは、発病初期の段階でインフルエンザや単なる筋肉痛と間違えられ、治療の開始が遅れがちなこと。
本人自身が、症状とダニとの関連性をまったく疑っていないので、皮膚科以外の診療科を受診してしまうケースが多いのです。
最も怖れなくてはならないのは、他の病気と診断され、適切な治療を受けないままに慢性症状に移行することでしょう。
早い段階で治療を受ければ、特効的な薬剤があって、症状はすぐに改善され完治するのですが、遅れた場合は様々な後遺症が遺ることになるようです。
棲息域へ行ってもライム病に罹らないようにするためと、万一ライム病に罹っても早い治療を受けるために、以下のことに留意しましょう。
1.ダニに刺咬されたときは、自分で虫体を取らず必ず皮膚科へ行き取ってもらうこと。
症例が少ないため、他科では診断と治療が遅れるおそれがあります。また、皮膚にくい込んだダニを手術によって 摘出する場合も、外科での異物摘出と異なり、ダニからの病原菌の感染を防ぐような手術をするのだそうです。
2.ダニは足下から這い上がるばかりでなく、頭上の木の葉からも動物の体温や炭酸ガス、振動などを感知して獲物 に飛びつきます。
山では帽子をかぶり、首周りはダニの好む白色系でない濃い色つきのバンダナやタオルなどで防護するのがよいようです。
3.地面や草むらに直接腰をおろすのは避けましょう。
4.ペットの犬を連れて山に入った時は、その犬はマダニに(シュルツェマダニとは限りませんが)に咬着されている可能性がありますから、その後犬に接触するときには注意が必要です。山から帰った後犬から離れ落ちたダニに車内や室内で刺咬されることが多いようです。犬のダニが人に着かないというのは迷信です。
5.山行中は1日に1回は点検して、ダニの咬着がないか調べましょう。
7.ダニの忌避剤を含んだ防虫スプレーを足や靴に吹き付けておくのもよいでしょう。また、同行のペットにも同様の防 虫剤をかけておきましょう。
8.不幸にしてダニに刺咬されていることに気づいたら、決して手で虫体を取ったりせず、48時間以内に皮膚科を受診 しましょう。(ダニはいったん咬んで吸血し始めると、口吻部が皮内に食い込んで、無理に取ろうとすると頭部だけ がちぎれて残り、感染や化膿の危険が増すそうです)
9.ダニの刺咬に気づかず、吸血して膨満したダニが皮膚から離れ落ちて初めてそれと気づいたときは、その虫体を保 存・持参して受診しましょう。シュルツェ・マダニであるかどうかを同定してもらうことも、適切な治療を受けるために役立ちます。
10.吸血したダニを見失い、咬み傷だけが残っていたときは、約1ヶ月前後の潜伏期間中は体調に注意して、急な発熱 や倦怠感、筋肉痛など、インフルエンザ様の症状などがあったら、直ちに皮膚科を受診しましょう。
もっとも、日本にいるシュルツェ・マダニの病原菌保有率は、場所による違いがあるもののざっと1割程度とか。また、病原菌を保有するダニに咬まれたからといって必ず発症するものでもなく、研究者によっては、シュルツェ・マダニによるライム病発症率は1%ぐらいではないかと言いますから、むやみに怖がることはなさそうです。
山のダニ類は、春から夏にかけて活発に活動するのが本来ですが、暖房設備の行き届いた車両や宿泊・休憩施設が普及している今日 、冬に吸血される例もあるようです。冬のアウトドアライフだからといって、油断は禁物です。特に、室内飼いの犬と行動を共にするときは注意しましょう。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます