先月友人と伊良湖から神島に渡ったときには、まだ渡りの盛期でなく、それらしい鳥影を見つけることはなかった。
改めてサシバの渡りを見ようと伊良湖に泊まり、日の出前に観察地の恋路ヶ浜駐車場へ行ってみた。この日の前日には、1649羽ものサシバの渡りが観察されている・・・
駐車場には既に数10台の車が駐まっていた。その多くはワンボックスカーで、撮影者達は揃って車のリアドアを上げ、その下に三脚にセットした大口径のカメラを空に向け、双眼鏡を手にしていた。
夜明け前の浜は風が強く肌寒かった。あたりはまだ薄暗いものの、浜の東の端、日出の石門の彼方の空は海際から茜色に染まり始めていた。岩礁に砕け散る白波が岩肌にまとわりついているように見える。
日出の石門に連なる段丘の肩から太陽が貌を覗かせると、あたりはにわかに明るくなり、それにつれ気温も上がり始めた。地面が暖まり上昇気流が発生する頃から、サシバの渡りが始まるという。
実は前日、昼食に立ち寄ったホテルの庭から、頭上高くを飛翔する5羽のサシバらしい群れを認めた。そのホテルは海抜120mほどの丘の上に建っているので、群れの中に、翼下面が白く見える幼鳥らしい2羽が交じっているのを、肉眼で捉えることができた。
6時を過ぎた頃、眼前の岬突端の丘の上空に、鷹の仲間らしい影が2羽3羽と次第に数を増しながら舞い始めた。猛禽類に疎い目には、8倍の双眼鏡で鷹の種類を識別するのは難しい。このあたりには、ハチクマ、ノスリなどの鷹も生息しているらしく、共に翔ぶこともあるという。
サシバは翼開長1mぐらいで、翼の先端の翼指が5枚であることを、前夜、宿の資料で知った。成鳥の雄雌、若鳥、幼鳥で羽の色調が異なるこの鷹、とても素人には手に負えない。
それでも空に眼を凝らしていると、岬の丘の上空を旋回していた数羽が、突然進路を対岸に定め紀伊半島目指してまっすぐに帆翔し始めた。その群れはみるみる小さくなり、ついに黒点となって、雲に吸い込まれるように双眼鏡の視界から消えた。その後、これと同じ光景を次々と目撃し、サシバの渡りに立ち会っていることをようやく実感できた。
サシバの渡り観察は7時ぐらいで切り上げ、宿に戻り朝食を摂った。その後、10時発の高速船で神島に渡った。船は伊良湖水道をたった15分で横断する。
伊良湖は愛知県田原町、神島は三重県鳥羽市と、行政区域が異なる。鳥羽の佐田港から神島港への距離は伊良湖港からのそれのほぼ2倍半。神島は志摩国の孤島だ。
山が海から持ち上がったようなこの島は最高点が海抜171m、西側は平坦部があるものの、東側から南側にかけては、絶壁で海に落ち込んでいる。
港の取り付け道路からいきなり階段の路になり、住宅はこの階段路の両側に建ち並んでいる。三島由紀夫が「潮騒」執筆のために寄宿した家も、その隘路に面して現存していた。
先ずは島の守り神、八代神社に参拝し、狭い階段路を旧燈台へ向かう。
山腹を巻く道の山側にはツリガネニンジンの花が咲き揃い、海側には所々にハマカンゾウの花が開いていた。
幸運にも、予期していなかったアサギマダラがアザミの花の蜜を吸っているところに出くわした。1500kmも移動する蝶として、TVで姿と名前だけは知っていた。この島がアサギマダラの渡りの中継地点であることを、後で島の人から教えられた。
旧燈台の敷地からは東に展望が開け、伊良湖水道を往来するタンカー・貨物船が見える。渥美半島の山並みは意外なほど近い
燈台から港に戻ったのはちょうど昼餉時。たこ飯に添えられたエイの和え物・アラメ巻きは、左党の私には堪えられないご馳走だった。
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