道々の枝折

好奇心の趣くままに、見たこと・聞いたこと・思ったこと・為たこと、そして考えたこと・・・

初夏の上越

2013年06月09日 | 旅・行楽

梅雨どきの初期は、梅雨前線がまだ本州の南の海上に腰を据えて動かない。ここ東海地方がその影響で曇天や雨になっても、十分に離れている長野県中部から北部にかけては、晴天に恵まれることが多く、空気も乾いている。

Ipone04_049梅雨を嫌気して人が行楽に出たがらない、したがって宿も空いている今頃は、目的地によっては絶好の旅の時となる。

折しも長野県と新潟県から東北にかけての落葉樹林帯は今が花の盛りのとき、上越を中心に東信・北信・中信を3日かけて車で巡った。

Fuji_018  白雪が斑に残る妙高山の麓に広がる高原は、まばゆい新緑の中、花々が妍を競って咲いていた。

イワツバメのカップルたちがドッグファイトさながらに目まぐるしく空中を飛翔する。地上Ipone04_056には タニウツギの花やレンゲツツジの花が咲き乱れている。タニウツギは東北青森のJR沿線の至るところで咲いているのを見たことがある。落葉広葉樹林帯の標徴樹だろうか?

森の奧の泉の在る辺りからモリアオガエルの鳴き声が聞こえてくる。林下を縫う小径の脇にはサンカヨウの群落があって、株の全てに花が咲いていた。露を含むと花弁がシースルーになるこIpone04_059の花に、常日頃の山行で出会うことは滅多にない。

ハウチワカエデやイタヤカエデの木立にヤマブドウの蔓が絡み、縁がピンクの葉芽が萌え出ている。ナナカマドも白い小さな花で覆われている。残念だが、ズミは花期を終えていた。足を進める度に魅力ある草や樹木が現れ、知らず知らず森の奧に足が延びる。無数の小鳥の囀りに包まれた森の中は、宿の温泉に身を浸すのに匹敵する心身のリラクゼーションが得られる。

高原の自然探勝を切り上げると、今度は目的をガラリと変え、9年にわたり愛飲している銘酒の蔵元へ向かった。4年前に鉄道で上越に入ったときには、時間の都合で訪問を割愛している。

北国街道を横断し、田植えの済んだ一面緑の中を、ナビを頼りにひた走る。行き交う車も無く、前方の山の端の上はどこまでも青い。

突然キツネが民家の脇から現れ、車道を横切り畑に消えた。過疎が動物の跳梁を招いているのだろう。ネットで囲いをした畑が目につく。

Fuji_022鉄道の踏切を渡り清流に沿う道に入ってしばらく走ると、ケヤキの巨樹が2本並ぶ蔵元の駐車場に付いた。石の階段を降りると、ネットで見た茅葺きの建物があった。鮎正宗酒造である。

 酒づくりという仕事の難しさは素人の理解の及ぶところではないが、米と水、ふたつの主原料が要目であることは論を俟たない。となると、米どころ越後にあっては、佳い水を継続的に確保できるかどうかが最も重要な課題ということになる。代を累ねて原料の佳い水を守ってきた創業家代表の言葉の端々に、水へのこだわりが感じられた。

案内され酒造用の水が湧く室に入ると、壁の奧(もう其処は工場内だろう)から清冽な水が滾々と湧き出ていた。その水をコップに採り飲ませてもらった。冷たく滑らかな舌触り、この水は酒になる前から身体の隅々に浸みわたる特性をもっているのかと思った。此処の酒のまろやかさは、この水に由来していることは間違いないだろう。

 環境汚染が進む現代では、酒造りに好適な水を確保することは容易でないようだ。酒づくりに適する水を化学的につくることはできても、天然の水の微妙な成分組成をつくりだすことは不可能だろう。

今湧き出ているこの水は、10年前の雨や雪どけ水が地下に浸透して濾過され再び地表に現れたものとか。10年の歳月をかけて濾し、ミネラル分を最適に溶かし込んで再び地表に戻す天然自然の装置というものは、妙高山の火山地質が寄与しているのだろう。かつて三島市を訪れた際、市内の各所で湧く水は、富士火山の地質によるものと教えられたことがある。

 9年前に出会って以来、専一に飲むようになったこの銘酒は、交通不便を厭わず此処を酒造りの場に定めた蔵元創業者とその子孫たちの、水にこだわる酒づくりの精華と云える。

因みにこの蔵元では、酒造にともなう雑廃水に配慮して、自社で浄化設備を保有している。過疎に悩む地域の行政は、公共下水の整備を断念したという。完璧に浄化処理して放流するのは、水へのこだわりが製品品質だけにとどまらず、環境保全にも及んでいることの表れだろう。

これからは、盃を口にする度に、上越の緑の山並みに囲まれた蔵元の、滾々と湧き出る水とケヤキの巨木が脳裡を掠め、酒の旨さが弥増すことだろう。

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