アエラ・ドット
瀬戸内:ものすごく生真面目な人なの。今でも美しいし。でもあんなに男運のない人はいないね。
林:先生は男運がよかった?
瀬戸内:外から見たらいい男じゃなくてもね。私が若い男と一緒に居るときに、有吉佐和子さんが来たんです。そしたら後で「瀬戸内さんの男を見た。どうしてあんなにつまらない男と一緒にいるんだろう」って言いふらしたんですよ(笑)。でも私はいいと思ってたの。今でも一番心に引っかかるのは、その男ね。
林:まあ。
週刊朝日 2017年3月3日号より抜粋
(週刊朝日の記事より)
瀬戸内寂聴氏と林真理子氏の対談が載っていた。
〈以下アエラ・ドットより引用〉
林:昨年の10月には有馬稲子さんと公開対談されてましたよね。有馬さんもすごくおもしろい方。
瀬戸内:ものすごく生真面目な人なの。今でも美しいし。でもあんなに男運のない人はいないね。
林:先生は男運がよかった?
瀬戸内:外から見たらいい男じゃなくてもね。私が若い男と一緒に居るときに、有吉佐和子さんが来たんです。そしたら後で「瀬戸内さんの男を見た。どうしてあんなにつまらない男と一緒にいるんだろう」って言いふらしたんですよ(笑)。でも私はいいと思ってたの。今でも一番心に引っかかるのは、その男ね。
林:まあ。
瀬戸内:だって私と別れた後、自殺したんだもん。私と別れてしばらくして首吊ったの。もしも私とそうならなかったら、普通に生きて穏やかな一生を送っただろうなと思って。
週刊朝日 2017年3月3日号より抜粋
〈引用終わり〉
強調文字は引用者(私)による
【私の所感】
瀬戸内寂聴さん、自分に私淑する林真理子さんとの対談で、気が弛んだのか臆面もなく凄いことをさり気なく話している。本性を暴露したということだろう。
対談当時齢94歳の老大家にして天台宗の尼僧。僧位は権大僧正。
彼女は、女の業の深さをことも無げにサラリと語っている。
何という冷酷非情!
女同士の、気のおけない間柄での対談だったから、ストレートに心の裡が表出したのだろう。彼女との不毛の恋に堕ちて、若い命を自ら絶った青年のことを想うと胸が痛む。
女性と男性の精神構造の違いは愕くほどに大きいと言われている。私だったら、若い恋人が別れた後に自死したら、その後平然と世を渡って行けるかどうか?少なくとも心中深く秘して、死ぬまで口外しないだろう。ましてや雑誌の対談などでは決して語らない。
彼女は恋多き女として世に知られている。
彼女にとってその若い男性とは、獲物であったのだろうか?狩人は獲物に情けなどかけない。愛しむ対象ではないからだ。若さを貪るためだけの存在だつたのだろうか?
女性に普遍な感性でなく、あくまで瀬戸内個人の特異な個性による発言であったと思いたい。
対談に登場する有吉佐和子氏は瀬戸内より9歳年下だった。有吉氏は53才で自死しているから、有吉氏が30代なら瀬戸内は40代、有吉氏40代の頃なら瀬戸内50代、想うに瀬戸内40才代の頃にその男性との経緯(いきさつ)があったのではないかと推察される。
ご当人が若い男と言うのだから、その男性は20代か30才そこそこであったかもしれない。まさに世に出る前の、前途有為の青年であっただろう。ご両親はじめ遺族の無念は想像するに余り有る。
瀬戸内本人の言うとおり、出逢ったのが身の不運という外はない。並外れて自己中心的な個性との恋愛は、その相手を不幸に陥れる。その青年は、人生の早い時期に一種の物の怪と出遭ってしまったのである。作家から権大僧正に変じて長命を保ち、平然と週刊誌で若い人たちの人生相談に応ずる物の怪・・・
理非を論うつもりはない。恋の当事者は成人同士、恋愛というものの非情な側面、利己的な恋の本質に思いを致すばかりである。
恋愛は詰まるところある種狂気の沙汰であって、決して幸福を保証するものではない。後腐れのない訣れで済めば上々、下手をすると身も心も破滅させられる。
この2人の老閨秀作家(林真理子氏は瀬戸内よりはるかに若く対談時63才だが、敢えてこの人も老人に含めたい)のさりげない対談の中から、女というものの実体と凄さ怕さが垣間見える。
女性は滅多に本性を露さないものだが、老いた所為なのか、老いてなお意気軒高の結果なのか、二人の対談には女性の本性が率直に顕れていると感じられた。
しばらく前に、テレビで熟年の女性タレントが3人で食事をする番組があって、その中のひとりが、「昔の男なんて石ころと同じ。思い出しもしない」と笑い飛ばしていた。自分のもとを去っていった男たちなど生き物でもない。石ころとしか見ない自己中心性が凄過ぎる。かりそめにも好意を感じた相手である筈だが・・・
女性ならではの現実性に、視聴しいていてただ唖然とするほかなかった。
池波正太郎原作〈鬼平犯科帳〉の第何話だったか?ひとりの女の為に、剣友2人が闘って相討ちで亡くなる話があった・・・
「女というものは、男と男の間に入って、何もかも滅茶苦茶にするものだなぁ・・・」
現場に駆けつけた長谷川平蔵が呟いた、暗澹たる思いの独白が、耳に残っている。
男と男の間でなくとも、女性に任せると、何故かメチャクチャになることことはある。
別の話で池波は鬼平に、「女というものは、昔もなく行く末もなく、 今があるばかりだなぁ・・・」と述懐させている。
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