はたち前後の頃は、誰でも住み慣れた故郷や親しい人たちと離れ、見知らぬ土地へ旅してみたくなるものだろうか?
その時期は、身近な異性の中に、恋心を抱くことが多い。
1人の人間の関心の先が、遠くと近く、遠近両方の対象に向かうのは、この時期ならではのことだろう。
近くへ収束する感情と、遠くへ拡散する感情の背理現象は、精神の均衡をとる作用である。
ちょうどその年齢の頃、自分から望んで交際した女性がいた。高校生の頃に一目惚れした女性だった。出会ってすぐには言い出しかねていたが、2年の時を待って、思い切って会いたいと伝えたら、承諾してくれた。
切々たる思いを、手紙に認めては送った。クリスマスにはプレゼントを交換した。
そのまま素直に喜んでいれば好かったものを、我ながら面倒くさい青年だった。
その頃、「遠くへ行きたい」という歌がリリースされた。永六輔作詞中村八大作曲、ジェリー藤尾歌唱の曲。
念いが叶ったのに、幸福感に満たされていたのに、不思議なことに、私はこの歌のように寂しさに捉われ、知らない街をただひとり歩きたいと痛切に願った。
会えば幸福感に満たされているのに、敢て彼女と離れ知らない遠い街に行きたいと願ったのは、いったいどうしてなのか?
次第に高まる恋情をあしらいかねていたのかもしれない。どのように自分を扱ったらよいのか、分からなくなり始めていた。訣れを予感していたのかもしれない。
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