道々の枝折

好奇心の趣くままに、見たこと・聞いたこと・思ったこと・為たこと、そして考えたこと・・・

月の沙漠

2012年01月01日 | 随想
「月の砂漠」という童謡、ロマンチックな歌詞と寄せては返す波のようなメロデイーで、子供心に強い印象を受け、今でも詞・曲共に忘れ難い歌曲のひとつになっている。
大人になって聴くと、人生行路を想わせる歌詞に感動する。
ただし、自己流の妙な節回しで唄う森繁久弥、粘りつくような気色悪い唄い方の井上陽水、このふたりの歌手のカバー・バージョンは、原曲のイメージを著しく損なうものとして遠ざけている。

昔の童謡歌手の伴久美子・川田孝子・小鳩くるみ、近年では安田祥子・由紀さおりの清冽な声で譜面に忠実に唱ったものを聴くと、この曲の佳さがしみじみと伝わってくる。

調べてみたら、挿絵画家で詩人だった加藤まさを(静岡県藤枝市出身)が大正12年に詩をつくり、佐々木すぐる(兵庫県高砂市出身)が曲をつけたとあった。その前年、東京音楽学校出身の佐々木すぐるは、それまで勤めていた浜松師範学校(現静岡大学教育学部)を退き、上京して本格的な作曲活動に入っている。

後にコロンビアの専属作曲家となったこの人は、生涯に2000曲もの楽曲を作曲したといわれている。その中には学校校歌も多数ある。浜松師範学校に在職していた関係からか、静岡県下の学校の校歌が多い。

静岡県立韮山高等学校、静岡市立東豊田小学校静岡県周智郡森町立宮園小学校、浜松市立元城小学校、浜松市立東小学校、湖西市立新居小学校、以上6校の校歌は、この作曲家の手に成る。

私は浜松市立元城小学校の卒業生でありながら、校歌が「月の砂漠」の作曲者によってつくられていたことを、還暦になるまで知らなかった。小学生の頃には幾度となく校歌を唄わせられたが、学校の誰からも、月の砂漠と校歌の作曲者が同じ人だったことを教えられたことは無かった。小学校の教師には、浜松師範学校卒業生が多かったのだが・・・

孫にこの曲を尋ねたら知らなかった。現在の義務教育は器楽演奏に偏り、唱歌は軽んじられているようだ。三代に亘る愛唱歌の無い国に、豊かな音楽文化の花が咲く訳がない。

ロシア、ウクライナ、ポーランド、ハンガリーなど、音楽が生活の一部になっている国々には、世代を超えて歌い継がれている歌曲が無数にある。

その母校も、今では学童数が激減している。いづれ統廃合により校名が消えるかも知れない。校名が消えれば校歌も失せる。

煌々と照らす月明かりの下、青白い砂丘の連なりを越え往くラクダの歩みを、見事に表現した名曲とのささやかな縁も、絶たれることになるだろう。

🎵広い沙漠を ひと筋に  二人はどこへ 行くのでしょう

砂丘をこえて 行きました  黙って越えて 行ききました🎵


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