山歩きが大好きで、其処で見かける
動植物なら何にでも愛着を感じる私でも、どうにも苦手な生き物がいる。
ヤマヒルがそれで、濡れ落ち葉で覆われた山道に繊毛のような無数のヒルが頭を擡げ、一斉に身体を揺らしながら待ち構えているのを見ると、肌に粟を生ずる心地がする。
ヤマヒルは水成岩質の山に多く棲息している。彼らの体には、哺乳動物の体温を感知するセンサーがあって、人が近づくとセンサーが働き吸血の準備態勢に入る。したがって、先頭よりも後続の人が被害に遭いやすい。その素早さは驚くべきものがあり、数秒間立ち止まっただけで靴の中に入りこまれてしまう。
吸血されても身体に害はないのだが、口から血液を凝固させない物質を皮膚に注入するので、吸血して小指ほどに膨満したヒルが地上に落ちた後も、血は止まらない。微細な吸血の傷跡からは想像できないほどの出血量があり、それに驚く人が多い。
困ったことに、自然環境が良好に保たれている山ほど、これが多数棲息している。彼らの吸血対象である哺乳動物が多いからだ。こちらは、そのような場所が滅法好きで、ヤマヒルなど怖がってはいられないのだが、生理的嫌悪というものを克服するのは難しい。
不思議なことに、他の吸血虫、アブ、ブヨ、ヌカカ、ダニなどの被害にはひととおり遭っているのに、これほど怖がっているヤマヒルにだけはまだ一度も吸血されたことがない。思うに彼らのセンサーは、体温だけでなく血液の成分をも感知でき、栄養分の乏しい不味そうな血液の持主は向こうが忌避しているのかもしれない。
滅多に吸血機会のない彼らにとって、獲物の血液の良非は死活問題だろう。彼らが活きの良い若いシカやイノシシを好むのは当然、人間でも若い人の方が狙う価値があるのだろう。
前置きが長くなってしまったが、そのヤマヒルが最も多く棲息し、活動期には登る人がいないといわれている山に、先日初めて登った。彼らが休眠に入るのを待っての入山だが、沢沿いの湿った登山道は、彼らには絶好の活動場所に見えた。夏にこの警告看板を見たら、普通の人は回れ右するだろう。
自然豊かなこの山、土地の人によると、マムシも数多く棲息しているらしい。
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