今年の春が終わる頃、知り合いが2羽のスズメの雛を容れた植木鉢を持って来た。前日の嵐で自宅にあった巣から落ちた雛だと云う。未だ羽毛も疎らな赤肌に近い雛だった。餌を2、3日与えていたが手に余り、日頃小鳥談義を交わす私なら面倒見てもらえるだろうと持ってきたらしい。
野鳥の会などでは、巣から落ちて道端で鳴いている小鳥の雛は、そのまま放置しておくのが原則だと云う。自然に人間が介入しない趣旨だろう。だがそれは、こちらの人間としての、保護本能に由来する心情には馴染まない。しかも原因は不明ながら、国内のスズメの数は年々減っていると聞く。
落ちた雛が他の動物に捕食されたり車に轢かれないよう、雨に打たれないよう保護するのは、自然の情のしからしめるところ。成鳥になるまで養護してから放鳥すると決め引き取った。日中は30分おきに餌をせがむので、2、3週間は家に貼り付けられるが仕方ない。
未だ野鳥の飼育が合法であった頃の経験が役に立ち、2羽のスズメはすくすくと育った。ひと月もすると、アワの粒餌を自分で啄むようになった。タンパク源のミルワームという生き餌を争って食べる頃には、羽毛も生え揃い、身がましい若鳥に育った。もうこうなると人の手に負えない。
給餌のたびに段ボールの養護箱から飛び出して、部屋中所狭しと翔び回り、手の届かないところに止まる。箱に戻すのがひと苦労になって来た。いよいよ放鳥の時が近いと知った。
放鳥の日、スズメのきょうだいは、養育中の世話を手伝った孫の兄弟2人から好物のミリワームを与えられ、彼らの掌から夫々翔び立った。
その後は仲間のスズメとうまく生活しているかどうか心配でならなかった。夏も終わる頃、ふと窓の外の小鳥の餌台に目をやると、2羽の見覚えあるスズメが餌を啄ばんでいた。他の鳥の空似だろうと思いながらも注意していたら、翌日もその翌日も、他のスズメに混じらず2羽だけで採餌に来るスズメがいる。やはり育てたきょうだいだとわかり、胸が熱くなった。他のスズメが来ない日没ギリギリまで、食餌を摂っている。
すぐ彼らとわかるのは、餌台の中へ身体をすっぽり、風呂に入るように入り込み粒餌を啄む癖。他のスズメたちの、餌台の縁に掴まり採餌する習性と違う。養護中に身に着いた癖だろう。自然状態で育った個体は、こうはならないと思う。
どうやら、他のスズメたちとの集団生活はうまくいっているようだ。明年の繁殖期まで、きょうだいが共に居られる期間は短いのではないか?
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