2年ほど前に「断捨離」という本が出て、しばらく耳障りの悪い「ダンシャリ」が流行語になった。昨年は「老前整理」という本がよく売れたらしい。
3人にひとりが65歳以上の超高齢化社会、どこの高齢者宅でも、使わない物品が溜まっている。それでも捨てられないのが人の常、記念の品、思い出の品や蒐集物、若かりし頃の写真など、過去への愛着を絶つことは難しい。
物を捨てるには決断が要る。決断するためには、揺るがない信念が要る。その信念をもつためには、確固とした思想、大袈裟に言えば哲学が必要だ。それで、物を捨てることを後押しするために、このような本が次々と出版される。
当地では今年から廃棄物が有料化される。経済的な損失は誰でも避けたいから、誰もが積極的に廃棄に取り組む時代が到来した。
折りしも40年間住み暮らした家を取り壊すことになった。この歳月に積もり溜まった個人と法人の書類や物品の量は想像以上に在った。約1ヶ月間、廃棄に忙殺され、選別に悩み、決断を迫られる日々が続いた。思い出を遺そうとする執着心との闘いは、想いのほか苦しい。
ところが、市の最終処分場に十数回も通い詰めるうち、物を捨てることに爽快感を感じるようになった。捨てる度に、その物への執着や愛着のしがらみから解き放たれ、窮屈になっていた心が拡がる。まさに、「老前整理」の著者の指摘する心境だった。
それにしても、積もり溜まったものを捨てるには、著者の言うとおり気力、体力、判断力が試される。これらが充実しているうちでないと、断捨離は実行できない。時間との競争である。
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