大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

iPhone苦戦の背景:日本の携帯電話との意外な共通点

2013年02月24日 | 日記

 欧米でのiPhone5の苦戦が世界的に大きな話題になっている。高すぎるのだ。なにか一昔前の日本の携帯電話を思い出してしまう。

 一昔前、日本の電機メーカーは、通信事業者からの高額の販売奨励金を背景に、日本国内で高機能の携帯電話を安価な値段で販売することができた。またその結果、値段では商品を差異化できず、メーカーはさらに高機能化や多機能化を進めて他社製品との差異化をはかろうとした。

 しかしアメリカなど海外の市場では、そのような事業パターンは存在しなかった。高額の携帯電話の市場は限られており、市場を拡大するには携帯電話を安価に提供する必要があった。これをやってのけたのがフィンランド(人口550万人)のノキアだ。

 ノキアは、最初、旧式化した携帯電話の多くの設計、部品をそのまま流用して、ローエンドで安価な携帯電話を開発。アメリカなどで、販売台数を劇的に伸ばしていった(高機能品に特化していた日本メーカーは市場シェアを大きく落としていく)。

 携帯電話の部品は、購入量が多くなるほど納入価格が低下するという性格が特に強いが、ノキアは、様々な機種で共通して用いることのできるプラットフォームを開発し(プラットフォーム化を進め)、同一部品の大量発注をつうじて購買コストを劇的に切り下げることに成功した。またノキアは、このプラットフォームを最大限に用いることで、短い時間、少ないコストで高機能な携帯電話から安価なローエンドな携帯電話まで、また世界の様々な規格に対応した携帯電話を開発することにも成功した。こうしてノキアは携帯電話で世界一のシェアを占めることになった(そしてソニーエリクソンを除いて日本の携帯電話は日本国内でしか見かけないものになった)。ただ、ノキアはスマートフォンの開発に乗り遅れ、現在、市場での存在感を急速になくしている。

 ところで、欧米市場でアップルのiPhoneが苦戦している。アップルは、スマートフォン(賢い携帯)の時代を作り出したが、その市場で苦戦をしいられている。いろいろ理由はあるだろうが、やはり大きな理由は価格の高さだろう。ほかに同等のものがなければ高くても売れただろうが、サムスンは同等のものをもっと安い価格で提供し市場シェアを高めている。また、LGは、いわゆるローエンドのスマートフォンを安価に販売し、携帯からスマートフォンへの移行を(少ない販売奨励金で)加速している。

 やはり高額のiPhone5を買える人はかぎられている。アメリカで、スマートフォンの市場を拡大するには、安価なローエンド機がどうしても必要だ。しかし、いまのところアップルにはローエンド機を開発、販売する気はないように見える(スティーブ・ジョブズが生きていたら・・・)。アップル独自のコンテンツへの過信があるのかもしれないが、アップルとアンドロイドの両方に対応したアプリも多く、ローエンドユーザーはアンドロイドに十分満足している。この状況は、高機能品に特化して、市場を失った日本の携帯電話に似ていないだろうか。日本の携帯のようにアップルが市場から消えることはないだろうが、上で述べたような状況が変わらなければ、アップルは苦戦し続けることになるのではないだろうか。

 

参考 スマートフォンの売上、パソコンを上回る。スマートフォンの売上で、サムスンがアップルを抜いて一位に?


アメリカの大学図書館の開館時間 II: 深夜の利用状況

2013年02月22日 | 日記

 アメリカの大学図書館は24時間開館があたりまえで、図書館は夜遅くまで勉強する学生で一杯だというイメージが一部にあるようだが、本当だろうか? 確かめに行ってきた。

 以前書いたようにハーバード大学には50を超える図書館があるが、その中でラモント図書館というところだけが24時間開館となっている(金土は10時まで)。上の写真は、今日(木曜日)の深夜12時半ごろの館内(一階)の様子。11時ごろまでは、もっと多くの学生がいたが、12時を前にかなりの学生が帰っていった。上は、ぽつぽつという感じだ。

 

 こちらの写真は、二階の光景。こちらもぽつぽつという感じだ。

 ラモント図書館には、ほかにも階があるが、全部合わせても100人はとてもいかないだろう。熱血受験塾のような光景を期待していた人には少し意外かもしれないが、ほかの大学もだいたいこんな風ではないかと思う(ただし試験期間中は満杯になる)。

 ちなみに、ボストンの地下鉄は夜2時まで動いているので、沿線に住んでいる人は2時までは安心して勉強することができる。また、これが一番重要なのだが、ハーバード大学は、徒歩圏内に大学寮や学生向けのアパートメントがあるので、そこにいる人は深夜でも安心して図書館を使うことができる。利用者は、その気になればいつでも帰れる、というのは図書館の24時間開館の大きな前提条件ではないだろうか。終電を逃したら、朝まで帰れないというのでは、深夜の図書館は寝る人や気分の悪くなる人でいっぱいになってしまうだろう。

 

 図書館を24時間開館する場合、深夜に帰宅する学生の安全を確保することも必要だ。アメリカの大学のキャンパスには、武装警備員が常駐しており、さらに上のような非常通話ポストが多数配置されている。郊外の大学の場合、図書館の24時間開館には、こうした対策も必要になるだろう。

 ちなみに日本ではさきごろ、京都大学が図書館の一部を24時間開館とした。京都大学の場合、徒歩圏内に学生寮やアパートが多数あり、また大学近辺(百万遍)は夜中でも人通りが絶えないという非常に恵まれた条件がそろっている。だが今の日本では、そのような条件を満たさない大学の方が多いだろう。今日本は、そうした違いを無視して一律に大学図書館の24時間化を推し進めようとしているようで気がかりだ。

 先に書いたようにアメリカも一様ではない。ボストンにはボストン大学という有名な私立大学があるが、この大学は市中心部に近いため、家賃の安いところから地下鉄などを使って通学する学生が多い。そうしたこともあるのか、HPで確認したところ、ボストン大学の図書館は24時間開館でなく、地下鉄の終電に合わせて2時閉館となっている(試験期間除く)。それぞれの条件に合わせて、最適なサービスを選択することこそが必要なのではないだろうか。


サムソンは広告費だけでなく研究開発費でもアップルを上回っている

2013年02月10日 | 日記

 日本では最近になってようやくサムソン製品への抵抗感が薄れてきたように思うが、アメリカではすでにソニー、東芝、パナソニックと同等かそれより強いブランド力を獲得している。とくにスマートフォンについて言えば、私の周り(米国)では、価格が高すぎるiPhoneの利用者より、サムソンなどアンドロイド系の利用者の方がはるかに多い。私も安価なLG製を利用している(上の写真)。アップル苦戦といわれる背景だ。ちなみに日系メーカーのものは、タブレットも含めてまったく見ない。

 今日のNYTの記事は、アップルの年広告費が約1千億円であるのに対し、サムスンの広告費が年約3千億円に達していると述べている。サムソンの成功の一因は、徹底したマーケッティングにあるとは従来から言われてきたことだが、これほどの差があるとは思わなかった。確かにサムソンのCMは、あらゆるところで見かけるし、しゃれている(coolな)ものが多い。

 ところで、NYTの記事でそれより興味深かったのは、サムソンの研究開発費がアップルの3倍だとの指摘だ。アップルのR&Dが34億ドル(売上の2.2%)であるのに対し、サムソンのそれは105億ドル(売上の5.7%)に達している。これまで韓国メーカーに対して、研究開発への投資が少なく、欧米にキャッチアップした後、自ら新技術などを開発しながら発展を続けられるか疑問だとの指摘もあったが、数字を見るかぎり、その認識は改める必要があるようだ。