大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

連邦地裁、ホワイトカラー・エグゼンプションの収入要件引き上げを差し止め

2016年11月25日 | 日記

 2016年11月22日(火)、テキサス連邦地裁は、12月1日から予定されていたホワイトカラー・エグゼンプションの収入要件引き上げを差し止める決定を下した。

 2016年5月17日(火)、米政府は、週40時間を超える労働について割増賃金の支払が不要となるホワイトカラーエグゼンプションの収入要件を引き上げると発表。2016年12月1日から、収入要件は現在の年2万3,660ドル(260万円:1ドル=110円で計算)から4万7,476ドル(520万円)に引き上げられる予定になっていた。また以降は、3年ごとに見直しがおこなわれることになっていた。

 しかし今回、テキサス連邦地裁は、収入要件の大幅な引き上げは行政に許される裁量の範囲を超えている可能性が高いとして、判決がでるまでその執行を差し止める決定を下した

 トランプ次期大統領は、オバマ政権が発令した大統領令や行政決定をすべて見直すとしているが、それ以前に判決で米政府の決定が無効とされる可能性が高くなった。

 なおホワイトカラーエグゼンプションの適用に際しては、収入以外にもさまざまな要件が存在している。


日銀の指し値オペは成功するか?

2016年11月18日 | 日記

  2016年11月17日(木)、日銀はあらかじめ指定した利回り(価格)で無制限に国債を買い上げる指し値オペをはじめて実施した。

 対象は2年債が-0.0905年債が-0.04

 市場では、トランプ氏の大統領当選をうけて債券の利回りが上昇(価格は低下)している。

 日銀は指し値オペにより、その水準以上に利回りが上昇すること(価格が低下)することを防ごうとしている。

 これができれば国債のいわば固定相場、管理相場が誕生するが、うまくいくだろうか?

 問題は、世界中で利回りが上昇するなか、指し値オペだけで日本の新発国債の利回り上昇を果たして止められるかである。

 日銀が高い指し値で買い戻してくれるので、ほかの国より低い利回りでも安心して新発国債を買えると考える機関投資家が多ければ利回り上昇は食い止められる。

 しかし米国などの債券利回りが大きく上昇するなか、新発国債の低い利回りに魅力を感じない機関投資家が増えれば、新発国債の利回りは上昇せざるをえない。その場合、新発国債と指し値の利回り差は拡大することになる(注)。

 年末には日銀が保有する国債の含み損が10兆円を超えるとされているが、新発国債と指し値の利回り差はそのまま日銀の含み損となるので、結果として日銀の含み損がさらに拡大することになる。

 指し値オペにより新発国債の利回り上昇を食い止められるかどうか、注意してみていきたい。

 

(注)

 2016年11月15日(火)におこなわれた5年国債(第129回)の入札における利回りは最高が-0.150%、平均が-0.160%(日銀の指し値は-0.04%)。

 10月27日(木)におこなわれた2年国債(第370回)の入札における利回りは最高が-0.235%、平均が-0.237%(日銀の指し値は-0.090%)。

 今後は11月25日(金)に40年国債、11月29日(火)に2年国債、12月1日(木)に10年国債、12月8日(木)に30年国債、12月13日(火)に5年国債などの入札が予定されており、利回りがどう変化するか注目される。

2016年11月25日(金)追記

 40年債の入札結果は、表面利率0.4%に対し応募者利回りは0.725%、発行価格88円90銭(額面100円に対し)だった。

 ちなみに前回9月27日(火)におこなわれた40年債の入札では、表面利率0.4%に対し応募者利回りは0.560%、発行価格94円34銭(額面100円に対し)だった。

 前回より利回りは上昇(価格は低下)する結果となった。ただ、応募倍率は前回より増え、また入札前の市場利回りを下回ったことから、今回の入札で特段の波乱はみられなかった。


日銀の保有する国債の含み損が10兆円を超す見込

2016年11月15日 | 日記

 2016年11月13日の日経新聞は、日銀の保有する国債の含み損が年末に10兆円を超す見込みになったと伝えた。

 利息を入れた収支も2018年度に赤字に転落する可能性が高いとされている。

 ただこれらは現在急速に進む金利上昇を十分に織り込んでいない可能性が高い。金利上昇が続けばさらに大きな損失が発生する恐れがある。

 トランプ氏の大統領当選を受け、先週、世界中で金利が上昇(逆に債券価格は低下)。ブルームバーグをはじめ欧米の経済メディアは、先週だけで、世界中で債券が1兆ドル(約100兆円:1ドル=105円)の価値を失ったと報じている。この流れは今週も続いている。

 債券から流出したお金は先進国の株式などリスク資産に向かっていると考えられている。


アメリカの4州が最低賃金を大幅に引き上げ

2016年11月13日 | 日記

 2016年11月8日、大統領選挙がおこなわれた日、4州で同時に住民投票がおこなわれ、最低賃金の引き上げが決まった。

  これによりアリゾナ州、コロラド州、メイン州は2020年までに最低賃金を12ドル(1260円:1ドル=105円で計算)に、ワシントン州は2020年までに最低賃金を13.5ドル(1400円)に引き上げることになる。

 アメリカでは、州の最低賃金を引き上げる動きが続いている。

 アメリカを含めた先進国の最低賃金の一覧はこちら(私のHP)


トランプフレーションで金利の上昇が始まった

2016年11月12日 | 日記

 トランプ大統領の誕生により、世界中で金利の上昇が始まった。

 下は、アメリカと日本の長期金利(10年国債の利回り)をグラフにしたもの。大統領選挙後、アメリカの長期金利が急上昇していることがわかる。わかりにくいが日本の長期金利もかなり上がって0%に近づいている。

 アメリカはこれまで財政赤字を増やすことを極力避けてきた。しかし大規模な減税10年で1兆ドル(100兆円)のインフラ投資を公約したトランプ氏が大統領に当選したことで、アメリカの財政赤字が拡大し、国債発行が膨らむとの観測から長期国債を中心に売りがふくらんでいる(金利は逆に上昇)。

 またほぼ完全雇用にあるアメリカで大規模な公共投資がおこなわれれば、賃金などが大きく上昇しインフレが急速に進行するとの考えからも(損失を避けるために)国債が売られている。

 こうしたことから欧米のメディアでは、トランプノミクストランプフレーションという言葉が登場している。

 金利上昇は、ゼロ金利で利ザヤを稼げなくなっていた金融セクターにとっては干天の慈雨である。

 一方金利上昇は、借金が多い政府、企業、個人には負担増となる。世界中、これまではあまり金利負担を考えずに借金できていたが、それが想像もしなかったような大きな重荷になる可能性がでてきた。

 とくに懸念が高まっているのが新興国である。先進国でゼロ金利が広がった今年、高い金利をもとめて新興国のハイイールド債(低格付け企業が発行した債権)が爆発的な人気になった。しかし金利上昇がはじまったことで、新興国のハイイールド債の価格が急速に下がっている(金利は逆に上昇)。新興国通貨も売られ始めており、返済や借り換えのコストが急速に高まっている。当時とは状況が大きく異なるなるものの、1997年のアジア通貨危機が思い出される。

 先進国ももちろん例外ではいられない。下は主要国の総負債額をグラフにしたもの(出所:国際決済銀行)。

 日本政府の負債の大きさはよく知られているが、民間企業や家計の負債もかなり大きいことがわかる。

 金利上昇には、景気上昇にともなう良い金利上昇と、景気が上昇する前に金利だけが上がってしまい景気が腰折れする悪い金利上昇がある。

 後者でないことを強く願っている。