大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

新興国のハイイールド債、過去最高の発行額

2019年12月29日 | 経済

 ウォールストリートジャーナルによれば、2019年、新興国のハイイールド債(信用格付けが投資適格にみたない企業の債券)の発行は1180億ドル(13兆円:1ドル=110円)と過去最高になるみとおし。発行の半分を中国がしめている。

 この背景にあるのが、世界的な低金利。

 WSJによれば、アジアのハイイールド債の利回りは7.6%と、米国のそれより2%ほど高く多くの投資家をひきつけている。

 来年には今年以上のハイイールド債の発行がみこまれている。

 ところで、これに警告を発しているのがIMF。

 IMFのレポート(2019年10月)は、ハイイールド債など危険性の高い投資がふえた結果、ノンバンクの財務がリーマンショック前と同じぐらい脆弱になっていると警告している。

 そしてこれをうらづけるようにWSJは、中国では今年10月までに民間企業が発行した元建て債券の4.5%がデフォルト(債務不履行)になったと指摘している(国有企業のデフォルトは0.2%)。

 アメリカで金融緩和がつづくかぎり世界をゆるがすような大きな混乱はおきないと思うが、2018年末にあったように米金融緩和の出口が意識されたとき世界の金融情勢はどうなるのであろうか?

 来年の大きな懸念である。


米株価、史上最高値の更新つづける

2019年12月25日 | 経済

 アメリカで企業業績が低迷するなか株価が史上最高値を更新しつづけている。

 背景にあるのが金融緩和の継続期待とブレグジットや米中貿易摩擦などへの懸念後退

 FED(米連銀)は今年3回の利下げをおこなうとともに、短期資金市場を安定させるという名目で月600億ドル(6.6兆円:1ドル=110円)の国債買い入れをはじめた。

 市場では2020年中の金利据え置きが期待されている。

 ブレグジットは出口がみえ、1月には米中貿易協議(フェーズ1)の決着(調印)もみこまれている。

 ウォールストリートジャーナルによれば、2020年は米企業の業績回復(前年比10%アップ)も期待されるようになっている。

 しかしながら、米株価のPER(株価が一株当たり利益の何倍にあたるかという数字)は歴史的にみてかなり割高(企業業績からみて高く評価されすぎ)な水準になっている。

 

 

出所: シラー氏がHPで提供するデータ(1881年1月~2019年12月)

 

 上は、2013年にノーベル経済学賞を受賞したシラー氏が考案した調整PER(CAPE)のグラフ。

 これは、S&P株価指数が一株当たり利益の10年平均の何倍になるかをあらわしたもの(ともにインフレ補正後)。

 短期的な景気変動の影響をのぞくため一株当たり利益について1年の利益でなく10年平均を使うところに特徴がある。

 ところでシラー氏は、米企業の調整PER(CAPE)は一時的におおきく上昇したり下落したりしたことがあったが、すべて歴史的な平均水準にもどっていると指摘している。

 つまり、株価が歴史的な水準(CAPE)をこえて上がり続けることはない、と指摘している。

 現在の調整PER(CAPE)はうえのグラフでわかるように大恐慌時と同じ水準にまで高くなっている。

 調整PER(CAPE)の上昇がいつまで続くのか注意してみていきたい。


UAW組合員、FCAとの労働協約を承認

2019年12月23日 | 経済

 2019年11月30日(土)、UAW(全米自動車労組)FCA(フィアット・クライスラー)は4年間有効の労働協約について暫定合意した。

 そして12月6日(金)から11日(水)にかけて全組合員による投票がおこなわれ、生産労働者の71%、専門労働者の59%、ホワイトカラーの67%の賛成により労働協約が正式に発効することになった。

 FCAは今年、デトロイトで休止していたマックアベニュー工場をジープ車生産のため再開するなど45億ドル(5千億円:1ドル=110円)を米国内に投資するとしていたが、今回、さらに協約期間中は工場を閉鎖しないこと、45億ドル(5千億円)をさらに追加投資することなどで合意した。

 その他の内容は、基本的にさきごろ締結されたUAWとフォードの労働協約と同じとみられる。

 ちなみに、FCAは期間労働者の割合が11%と、フォードの7%、GMの8%より高い。

 このこともあり、FCAの時間当たり労働コストは55ドルと、フォードの61ドル、GMの63ドルより安くなっている(日本など海外勢の労働コストは約50ドル)。

 これに対しGMは、過去の労使交渉においてFCAがUAW幹部と共謀してGM・フォードより有利な労働協約を締結したとしてFCAを裁判に訴えている。

  

フォードのUAW組合員、労働協約を承認 2019/11/16 

UAWとフォード、労働協約を暫定合意 2019/11/11

UAW会長、休職へ: 汚職捜査進む 2019/11/6

GMのUAW組合員、労働協約を承認: 40日間のスト終結 2019/10/27

GMとUAW、暫定合意 2019/10/17

GMのストライキ、終結か? 2019/10/16

UAW、スト給付金を増額 2019/10/13

GM、医療保険の提供を中止 2019/9/20

UAW、GMでストライキに突入 2019/9/16

UAWの元GM担当役員が汚職で有罪認める 2019/9/10

UAW元役員、FCAからの不正な金品受け取りで懲役刑 2019/8/6 

カナダのGM工場のストライキが終結 2017/10/17

カナダのGM工場でストライキ 2017/9/21


米政権、フードスタンプの受給条件を引き上げ

2019年12月20日 | 経済

 ウォールストリートジャーナルによれば、トランプ政権は食糧支給(フードスタンプ)受給資格を厳しくすることを決定した。

 アメリカでは連邦政府が、家族数や扶養家族の人数を基準に貧困基準(貧困と認定される所得水準)をさだめている。

 たとえば2018年は、65歳未満の一人暮らしの方については年収13,064ドル(144万円:1ドル=110円)が貧困基準となっている。

 そして連邦政府は、この貧困基準の130%以下、上の一人暮らしの方でいえば年収187万円以下の方にたいし必要な食糧だけをかえるデビットカード(昔はチケット)を支給している。

 これは一般にフードスタンププログラムといわれている。

 アメリカでは現在、3640万人のひとがこのフードスタンプの受給をうけている(人口の1割以上)。

 ところが今回、トランプ政権は扶養家族がいない方について受給条件を引き上げることを決定した。

 現在、扶養家族がなく労働能力がある場合、3か月をこえてフードスタンプを受給するには週20時間以上働くか職業訓練をうけることが必要となっている。

 ただし、失業率全国平均を20%以上うわまわる州は、その条件を無効にすることができる(2019年11月の全国失業率は3.6%)。

 今回トランプ政権は、これを失業率が6%以上の場合にかぎって州は上記の条件を無効にできると改めることを決定した。

 フードスタンプを管轄する米農務省は、これにより22.3万人の方が受給資格をうしなうことになると試算している。

 これに対し民主党は、低賃金で働ける時間がかぎられるため貧困に陥っている人が多く、こうした方々が3か月で生活をささえる仕事をみつけるのは困難だと今回の決定を批判している。


米連邦公務員、ようやく有給の育児休暇みとめられる

2019年12月17日 | 経済

 ウォールストリートジャーナルによれば、民主党と共和党は連邦公務員に有給で12週間の育児休暇を認めることで合意した。

 1981年にレーガン大統領が就任するまで、アメリカは女性の職場進出、地位向上をめざす法整備で世界のトップをはしっていた(公民権法第7編や平等賃金法など)。

 しかし1980年代以降、ゆりもどしの動きが強くなり法整備は停滞

 1980年代以降、ヨーロッパや日本で手当つきの育児休暇が導入されるなか、アメリカ連邦レベルでは民間労働者にはいまだ無休で12週間の育児休暇しか認められていない(FLM法)。

 連邦公務員(210万人)についても、軍人だけは有給で12週間の育児休暇が認められているが、それ以外の連邦公務員は民間とおなじで無給で12週間の育児休業しか認められていない。

 しかし今回、民主党と共和党は連邦公務員すべてについて有給で12週間の育児休暇を認めることで合意した。

 WSJは、この合意は民主党が宇宙軍の(統合軍?からの)独立をみとめるのと交換で成立したとの関係者の談話を紹介している。2大政党がきっこうするアメリカでは、こうした取引(ディール)がめずらしくない。

 なお民主党は、民間労働者についても有給の育児休暇を保証する法律の制定をめざしている(州レベルでは存在)。