大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

クライスラーの販売計画

2014年05月07日 | 日記

  FT紙などによるとクライスラーは、中型セダンや小型SUVなどを新たに開発しフルレンジとし、2013年に35万台だった北米での販売台数を2018年に80万台に倍増させる計画を発表した。同社はまたブラジル、イタリア、中国、インドなどでジープブランド車の生産を新たにはじめ、2013年に73万台だったジープ車の販売台数を2018年に190万台にまで増加させるとしている。

 クライスラーは車種構成に大きな偏り(大型車が多い)があることと新興国市場で出遅れているという2つの問題を抱えているが、今回の発表はそのふたつの問題を解決しようとする試みのように見える。計画がどの程度うまくいくのか注目していきたい。


円安でも輸出が増えない理由

2014年05月05日 | 日記

 円安でも思ったほど輸出が増えないことが問題になっている。これについては、もう少し時間がたてば輸出が増加するとする楽観論(Jカーブ効果説)と、生産設備の海外移転が進んだ結果、円安が進んでも輸出増加が見込めなくなっているとする悲観論が対立している。これについては、産業ごとに余剰設備がどれぐらいあるのか、商品競争力がどれだけ回復しているか実証的に見ていく必要があるだろう。理論だけで結論がでる問題ではない。

 

 自動車産業についていえば、円安が進んだにもかかわらず2013年度の自動車輸出は2年ぶりの前年度割れとなったことが明らかになった(日本自動車工業会 4月30日発表データ)。この理由としては、①生産設備の海外移転が進んだこと(国内の余剰設備の整理が進んだこと)、②昨年は国内需要が旺盛で輸出余力が低下したこと(国内生産は3.8%増加しているが、輸出でなく国内販売にまわされた)、などが考えられる。ちなみに2013年度の海外生産は前年比で5.9%増加している。こうした状況がかわらなければ、円安が進んでも輸出増加による経済成長の押上げは難しいかもしれない。

 

 可能性がないわけではない。逆説的だが4月の消費税アップにより国内需要の低下が予想される(注1)。その分が輸出にまわれば、今年度、輸出数量はひょっとすると増加に転じるかもしれない。しかし生産余力などを考えると、結局は国内販売分が輸出におきかわるだけで、輸出が原動力になって国内生産台数が今より大きく増加することは今後も期待しがたいように思う。

 

 米金利の上昇で円安が大幅に進んだ場合はどうであろうか。その場合、円表示での海外収益が増加し企業業績が押し上げられることはあるだろう。しかし国内設備の拡張がなければ(その可能性は小さいし、あったとしてもそれが完成するのは数年後)、輸出の大幅増加は難しいのではないか。これがいまのところの私の結論である。もっとも未来予測を6割以上の確率で当てられる人はめったにいないというのが自説なので、間違ったらご勘弁。

 

(注1)5月1日に発表されたデータによれば、4月の自動車販売は前年比5.5%減にとどまった。減少幅は予想よりずいぶん小さく、ここから消費増税の影響は思ったより軽微で終わりそうだとする意見が多く出ている。しかし日刊自動車新聞(5月2日)は、駆け込み時に生じた受注残が4月になって納車されたケースが多いとし、「4月に入ってからの純受注は『半減から前年比7,8,9割までばらばらの状況』」という自販連のコメントを載せている。また軽自動車は、事前予想をうらぎって前年同月より増加したが、これは昨年4月には現在大人気となっている軽自動車(三菱、日産)がまだ納車されていなかったという事情も大きく関係している。こうしたことを考えると、消費増税の影響を見極めるには時期尚早と言えそうだ。 

 ちなみに4月に入っても法人需要は好調なようで、法人の多い大都市では販売台数の減少が比較的小さくおさまっているところもあるようだ。しかしそれ以外の地域では、販売状況が芳しくないところが少なくないようで、5月の自動車販売台数が注目される。