大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

EUのインフレ率が中銀目標の2%に到達

2018年06月30日 | 日記

 EUのインフレ率が、EU中銀が目標とする2%に到達した

 2018年6月29日(金)、EU統計局は、EU加盟国(19ヵ国)の6月のインフレ率(HICP:加盟国共通のインフレ指標)が1年前に比べ2%の上昇になったと発表した。

 EU中銀はインフレ率2%をターゲットにしているが、それを達成することになった。

 ところで同日、アメリカでも政策金利を決定するFOMC(公開市場委員会)がインフレ指標として重視する5月のPCEの発表があった。

 アメリカのPCEは4月に2%を超えたが、5月には変動の激しい食品とエネルギーを除いたコアPCEも2%に達した

 利上げの加速が意識される中、アメリカのクドロー国家経済会議委員長は、米政府は中銀の金融政策について言及しないという25年間の慣例を破って「超スローペースで利上げすることを望む」と発言するなど波紋が広がっている。


米連邦最高裁のケネディー氏が辞職:最高裁の保守化が一気に進むか

2018年06月28日 | 日記

 2018年6月27日(水)、アメリカ連邦最高裁のケネディー氏(81歳)が辞職の意向を表明した。

 アメリカの連邦最高裁の裁判官は9人定年はなく、弾劾制度はあるものの原則として自ら辞めるか亡くなるまで職を解かれることはない(ちなみに欧米では法律で定められた一部の職を除いて、年齢差別になるとして定年制は禁止されている)。

 現在の構成は、5人が保守派、4人がリベラル派

 この中で重要な役割を果たしてきたのがケネディー氏。

 ケネディー氏は保守派でありながら、争点-とくに中絶やゲイの方々の権利-によってはリベラル派を支持するなど、最高裁の判決が保守、リベラルどちらか一方に極端に偏ることを防いできた。このように多数派にありながら、両者のバランスをとる裁判官はスイング・ボーターと呼ばれている。

 ケネディー氏の辞職をうけトランプ大統領はかわりの最高裁判官を指名し、上院でそれを承認する手続きに入る。

 問題は、ケネディー氏のかわりに保守強硬派が指名され、最高裁の判決がこれから保守に振り切れる可能性がでてきたことである(ちなみにアメリカの保守は、経済的には国家や政府の権限を極力小さくしようとする立場のことをいい、日本の保守とはまったく異なる)。

 これまでは、スイング・ボーターの裁判官が辞めると、多数派の中から新しくスイング・ボーターになる者があらわれてきた。ケネディー氏も、もともとはスイング・ボーターでなかったが、それまでスイング・ボーターを務めてきた保守派のオコーナー氏が辞職したあと、その役割をかわりに担うようになった。

 今回も同じことが起こって最高裁のバランスが保たれるのか、あるいはスイング・ボーターが登場せず、判決が保守に振り切れるようになるのか。注意してみていきたい。

(追記)

 同日、アメリカ連邦最高裁は、連邦公務員にエイジェンシー・ショップを認めない判決を下した(NYT 2018/6/27)。


トルコでエルドガン大統領が勝利宣言: 積極財政の継続へ

2018年06月25日 | 日記

 

 上:ローマ帝国の巨大建設プロジェクト。387年に完成したイスタンブールのヴァレンス水道橋(1993年撮影)。

 

 2018年6月25日(日)、トルコで総選挙がおこなわれ、現職のエルドガン大統領は過半数の支持を得たとして勝利宣言をおこなった。与党の公正発展党は、単独では過半数に届かないが、連立する民族主義行動党と合わせると議会の過半数を占める見込み。なお、野党は選挙に不正があったと主張しており、選挙結果をめぐってしばらく混乱が続く可能性もある(欧米の一部の選挙監視団は入国を拒否されている)。

 ところでニューヨーク・タイムズ(2018/6/21)によればエルドガン大統領は、選挙がおわったらボスポラス海峡に並行して巨大運河の建設に着手すると主張している。

 エルドガン大統領は、政治では強権的に反対派を排除。その一方で、吊り橋としては世界第4位の長さをほこるオスマン・ガーズィー橋やヤズル・スルタン・セリム橋など巨大建設プロジェクトを実行。公共事業を大幅に拡大することで(積極財政により)、GDPの拡大をはかってきた。NYTによれば、エルドガン氏が大統領になった2002年にはGDPに占める建設業の割合は16%だったのが、現在では22%にまで増加するにいたっている。

 しかし、近年、そうした政策の負の影響もあらわになってきた。先の2つの橋は高い通行料金のため交通量が少なく政府が建設費用の返済のため多額の補助金を支給せざるをえなくなっているとか、与党と建設業者の癒着が進んでいるとか、高物価、トルコ・リラの急激な下落が進んでいるなどである。

 こうしたなか、本来であれば緊縮財政にかじが切られなければならないのであるが、先に述べたようにエルドガン大統領は、これまでどおり積極財政を続ける姿勢を見せている。ちなみに、さきの巨大運河については、ただで通れるボスポラス海峡が近くにあり、ガス・石油パイプラインの敷設によりタンカー通行が減っているなか、はたして十分な船舶利用が見込めるのか疑問視する声も多い。

 物価、為替、景気、財政のバランスをどうとっていくのか、今後を見守りたい。

関連ブログ

6月24日にトルコで大統領選挙: 選挙後が焦点(2018/6/7)

 


自動運転と電気自動車、高級車から普及する流れ強まる 

2018年06月24日 | 日記

 現在、自動運転と電気自動車の開発をめぐって世界で激しい競争がおこっているが、ここにきて高級車から普及が進む流れが一段と強まっている。

 ウォール・ストリート・ジャーナル(2018/6/22)によれば、アウディ、ポルシェ、BMWについでジャガーがこの8月、電気自動車I-Paceを発売する。来年にはベンツが電気自動車の販売を開始する予定になっているほか、ベントレーロールスロイスでも電気自動車の計画が進んでいる。

 同紙によれば、2022年末までに電気およびプラグイン・ハイブリッド合わせて75モデルが、2025年までには500モデル近い電気自動車が発売される予定になっているが、他のセグメントに先んじて高級車ブランドで電気自動車の導入が進みつつある

 自動運転も同様である。BMWやベンツの一部車種には、かなり前から自動で前車に追従する機能がついており、自動で車線を変更する機能がついているものもすでに市販されている。また現在、自動運転でもっとも高い評価をうけているモデルのひとつがキャディラックのCT6(日本仕様車は異なる)である。

 キャディラックCT6が搭載するスーパークルーズと呼ばれる自動運転システムは、幹線の高速道路についてあらかじめ空間情報地図をインプットしており、その区間であれば手を放したまま安全に運転することができるようになっている。テスラを含む他社の自動運転車のようにハンドルに手を置く必要はない。そのかわり、運転者の視線をカメラがチェックし、道路を一定時間見ていないと警告を発する仕組みになっている。GMは今後、このシステムを他のキャディラックのモデルに広げた後、GMの一般の車種にも広げていくとみられている。

 ここで気になるのが日本メーカーである。日本メーカーは日本とアメリカにおけるレクサス(トヨタ)の成功を除けば、高級車モデル・ブランドの扱いが小さく、高価な新技術を普及させる基になる車に欠けている。あるいは、そもそも新技術を普及させるため高級車を使うという発想に乏しい。水素自動車も、レクサスに導入すれば1千万円でも欲しい(お得だ)という人はたくさんいたと思うが、あえて大衆車をおもわせる作りにしているのは(それでいて値段は高い)マーケティングの失敗ではないかと思う。日本メーカーは、電気自動車や自動運転も、ハイブリッド車のように最初から量産車種として普及させようとしているようにみえるが、それが可能になるときまで世界は待っていてはくれないのではないか。経済を支える重要な産業なので大変気がかりである。

2019/4/17追記

 GMは、スーパークルーズを2020年からキャディラックCT5に搭載すると発表した


IMF、アルゼンチンに500億ドル(5.5兆円)の融資枠を設定

2018年06月08日 | 日記

 2018年6月7日(木)、IMFはアルゼンチンと3年間にわたって500億ドル(5.5兆円:1ドル=110円)の融資枠を設定することで合意した。

 フィナンシャル・タイムズなどによれば、今回の融資枠の設定の条件としてIMFは、

1) 今年度は現政権がきめた財政赤字をGDPの2.7%以下におさえるという目標を尊重して、変更は求めない

2) 2019年度の財政赤字はGDPの1.3%以内にすることを求める(従来目標は2.2%)

3) 財政均衡を達成する時期を従来の2021年から2020年に早めることを求める、としている。

 アルゼンチンのインフレ率は28%。IMFのもとで、アルゼンチンはインフレ率を2019年に17%、2020年に13%、2021年に9%にすることを目標にするとしている。

 ところでこれから新興国で大きな問題となりそうなのが、緊縮財政と景気後退

 現在、多くの新興国で通貨安、高インフレを抑制するため金利が急速に引き上げられている。ここに、緊縮財政が加わると景気に大きな影響が出ることが懸念される。

 たとえば同じく通貨安、高インフレにみまわれているトルコは、2017年には積極財政のおかげでGDPが7.4%の大幅上昇をとげたが、ムーディーズは、それが2018年には2.5-4%に大きく低下することを予想している。しばらくの間、新興国の金融政策、景気動向を注意してみていきたい。

過去の関連ブログ

アルゼンチン、IMFに信用供与求める(2018/5/9)