大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

トランプ次期大統領、税制改革による輸入抑制

2016年12月25日 | 日記

 トランプ次期大統領は税金について、法人税の35%から15%への引き下げ、(中国からの)輸入品に45%の関税をかけることを公約にしている。

 日本ではとくに後者についてその実現性を疑う意見が多いが、アメリカでは関税ではなく税制改革をつうじた輸入抑制の可能性がさかんに指摘されている。

 そのもとになっているのが2016年6月24日に共和党のライアン下院議長とブラディー下院議員が発表した税制改革案である。

 税制改革案では、法人税を現在の35%から20%に引き下げること、所得税の最高税率を現在の39.6%から33%に引き下げることとならんで、生産地でなく消費地で課税するという仕向地課税(destination-basis tax system)が提唱されている。

 詳細は明らかになっていないが、アメリカで生産されたものでも輸出されるものには課税せず(その売上をバランスシートに計上しなくてよい:私の理解です)、逆にアメリカで消費される輸入品には課税するというような説明がされている。

 最初に述べたようにアメリカのメディアでは、こうした仕組みにより輸入抑制がはかられる可能性がさかんに指摘されている。

 これが実現すると、中国だけでなく日本を含むアメリカへの輸出が多い国に広く影響が及ぶことになる。気になるところである。


拡大するアメリカの対中貿易赤字とトランプ次期大統領

2016年12月23日 | 日記

 アメリカの貿易・サービス収支の赤字が拡大を続けている。

 下はアメリカの貿易・サービス収支の推移をグラフにしたもの。

 

 

  グラフからは1990年代後半以降、中国に対する貿易・サービス収支の赤字が拡大し、年間の赤字額が1000億ドルから5000億ドル(約60兆円:1ドル=120円で計算)に5倍近く拡大していることがわかる。

 第二次世界大戦後、アメリカの貿易・サービス収支は黒字だった。

 しかし、上のグラフからもわかるように1970年代半ばから赤字が定着するようになった。その原因は日本だった。

 下のグラフをみると1970年代、80年代のアメリカの貿易・サービス収支の赤字のほとんどが日本によるものだったことがわかる。

 その結果、アメリカ国内で日本批判が強くなり、プラザ合意による円高誘導、日本車の対米輸出の自主規制対米直接投資(工場進出)が進むことになった。

 

 今、それと同じことが起ころうとしている。

 上のグラフを見ると赤字に占める中国の割合は、1980年代後半の日本より小さいように見えるが、最初のグラフからわかるように赤字の金額がけた違いに大きく、それがいまも拡大を続けている。

 なんらかのバックラッシュが起こってもおかしくない。

 当時の日本と異なり、現在の中国は巨大で急成長する市場としてアメリカ企業に多くの投資機会を提供しているという大きな違いはあるが、このまま放置されるとは考えにくいほどに赤字が大きくなっている。

 トランプ次期大統領は選挙中、貿易問題で中国批判を繰り返し、さきごろは極端な対中強硬派ナバロ氏を通商戦略を提言する組織の委員長に任命した。

 中国とアメリカの貿易関係は、これから80年代の日本が経験したような一時的な調整を迎えることになるのか、あるいはそれが回避されるのか。数年のスパンで、その経過をみていきたい。

  データの出所:U.S. Bureau of Economic Analysis


トランプ次期大統領、最低賃金引き上げ反対派を労働長官に指名

2016年12月09日 | 日記

 2016年12月8日(木)、トランプ次期大統領は、次期労働長官にAndrew Puzder氏を指名した。

 NYTによれば、Puzder氏はファースト・フードチェーンHardee's Carl's JrのCEO。同氏は、中小企業の経営と低賃金労働者の雇用を脅かすとして最低賃金の引き上げを批判するとともに、オバマ政権がおこなったホワイトカラー・エグゼンプション(法定労働時間を超えて働いても残業手当が不要となる)の収入要件の引き上げも批判している。

 トランプ次期大統領は従来の共和党支持層に加え中西部を中心とした労働者の支持を得て大統領に当選したが、最低賃金の引き上げなど労働者の法的な保護は後退を余儀なくされそう。