大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

イタリアの銀行問題:なにが問題なのか

2016年07月10日 | 日記

 欧米の経済紙を読んでもイタリアの銀行問題はわかりにくい。そうしたなかニューヨーク・タイムズ(NYT:2016/7/6)にわかりやすい解説記事が出たので以下にまとめておく。

 イタリアの銀行がリーマンショックによって抱えた不良債権は2220億ドル(23兆円:1ドル=105円で計算)と見積もられている(IMFの推計では3600億ドル:38兆円)。

 イタリアの銀行はすでに、この不良債権を本来の40%の価値しかないものとして減損処理を済ませている。

 しかし、市場では40%の減損では十分でなく、さらに減損処理が必要であるとみなされている(注)。これをおこなうには(減損後に一定の自己資本比率を確保するには)、450億ドル(4.7兆円)の資本を注入する必要があると考えられている。イタリア政府には4.7兆円を投入する財源があるが、この4.7兆円の処理方法がいま大きな問題になっている。

 ヨーロッパでは、リーマンショックで銀行救済のため多くの政府資金を投入せざるをえなかったことに大きな批判があり、現在、EUは株主や債権者が一定の負担をした後でなければ、銀行救済のため政府資金を投入することを禁止している(ベイル・イン)。

 この仕組みはとくに大手債権者を念頭に置いたものと思われるが、イタリアの問題は、(いろいろな証券などのかたちで)銀行の負債の1/3を個人が保持しているということにある。このため、イタリア政府は、EUの原則をそのまま適用することをちゅうちょしている。イタリア政府は、大手債権者と個人を分けて処理することも考慮しているが、その線引きは簡単でないと考えられている。

 あるいは政府による直接的な銀行救済を避けるため、政府出資のCassa Deposiiti e Prestitiが資金を供給する可能性も指摘されている。

 イギリスのEU離脱問題などもあり、EUは今回イタリアに政府による銀行救済の特例を認める可能性が高いと思われるが、このあたりの不透明感-場合によっては、個人も損失を負わされ、イタリア経済や金融システムに大きな影響が出る可能性も含め-が、今回のイタリアの銀行問題だということになる。

 なおNYTは、たとえ今回、特例が認められたとしても、イタリアの金融システム全体の改革が進まなけば、数年後に同じような問題が起こる可能性があるとする意見を紹介して記事を終えている。

(注) 2016年7月末、モンテ・パスキ銀行は不良債権を証券化して売却すると発表した。価格は、もともとの債権価値の33%に設定された。(2016/8/1 WSJ より)

2017年8月22日追記

 2017年7月4日、EUは焦点になっていたモンテ・パスキ銀行に対して、イタリア政府が54億ユーロの公的資金を注入することを承認した。

 株主や機関投資家には43億ユーロの負担を求める一方、特例として個人の債権者への補償を認めるというもので、本文の予想通りの展開となった。

 

2016年8月19日 一部修正

2016年9月10日 注を追加