大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

米上院のオバマケア修正案、6月中の完成目指す

2017年05月31日 | 日記

 米上院は現在オバマケア修正案の作成をおこなっているが、ウォール・ストリート・ジャーナル(2017年5月28日および6月2日)によれば上院は6月中に法案をまとめ、8月末までに法案を成立させること(上下院の調整を終えること)を目指している。

 同紙は、医療団体、保険会社、高齢者団体の多くがさきごろ下院で可決されたオバマケア改廃案に対し反対の立場であるとしたうえで(これらの団体、高齢者の負担増となるため)、上院案への積極的関与をはかっているとしている。

 最終的には上院と下院で意見を調整して同一の法案を両院で可決しなければ法律は成立しないが、両院の調整は容易ではないとみられている。

★2017年6月3日に内容を一部修正、加筆。


トランプ政権の予算教書、実現不可能な3%という経済成長率を前提に、福祉を縮小して大減税の実現はかる

2017年05月26日 | 日記

 2017年5月23日(火)、トランプ政権は2018年度(2017年10月-2018年9月)の予算教書を公表した。

 政府が予算案を作成する日本と異なり、アメリカでは議会与党が予算案の作成をおこなうが、そのガイドラインを指し示すのが予算教書である(ただしなんの法的強制力もない)。

 今回の予算教書は、10年間で政府支出を3.6兆ドル(400兆円:1ドル=110円)削減するとしており、ワシントンポストは実現すればアメリカ史上最大の支出削減となるとしている。

 支出削減のおもな対象は福祉

 1)アメリカには貧困層が無料で加入できる医療保険メディケイドというものがある。またメディケイドに加入できるほど低所得でないが、医療保険に入れるほど所得が高くない家族の子供に医療保険を提供するプログラム(CHIP)がある。このふたつの加入者は7千4百万人(2016年)であるが、この予算を2018年度に約20%削減する。

 2)アメリカは貧困層に食料購入用のデビッドカードを支給しているが(受給者約4.4千万人)、この予算を2018年度に約30%削減する。

 これらのプログラムの削減により10年間で1兆ドル(110兆円)の支出削減になるとされている。

 このほかにも、子供のいる貧困家庭向けの手当て(TANF)、失業保険、低所得者に税金を払い戻す税額控除制度(ETIC)、障がい者年金(SSDI)などの予算が大幅に削減される(ワシントンポスト)。

 今回の予算教書でもうひとつ注目されるのが、実現不可能な3%という経済成長率を前提に税収入の計算がおこなわれていることである。

 予算教書は2021年に経済成長率は3%に達し、2027年までその水準を保つとしている。しかしCBOは今後10年の経済成長率は1.9%と予想しており、連邦準備銀行の予想も1.8%となっている(ウォールストリートジャーナル)。

 経済成長率がいつもお手盛りの日本と異なり、アメリカの予算教書はこれまでCBOの予想とまったく同じではないにしても、それと大きく異なることはなかった。しかしトランプ氏は就任直後からひたすら経済成長率は3%になると主張しており、それを押し通したかたちになった(NYT 2017/2/28)。

 この前提により、歳入は2016年の3兆2680億ドル(360兆円)から2027年の5兆7240億ドル(630兆円)に増加し、2027年の予算は黒字になるとしているが、ウォールストリートジャーナルを含め米主要メディアはこれを非現実的とこぞって批判している。

 税制改革案もそうだが、この予算教書もあまりに極端すぎてこのまま実現するとはとうてい考えられない。共和党上院がこれをそのまま受け入れることはないだろう。

 米メディアでは、議会共和党がトランプ氏と距離を取り始めたとの指摘が増えているが、予算の行方を引き続き注視していきたい。


下院のオバマケア改廃案が実現すると、2千3百万人が無保険に

2017年05月25日 | 日記

 政府が予算案を作成する日本と異なり、アメリカでは議会が予算案を作成する。その予算作成を補助するのが政府の議会予算局(CBO)である。

 CBOはさきごろ下院を通過したオバマケア改廃案により今後10年間で、財政赤字が1190億ドル(約13兆円:1ドル=110円)減少するが、医療保険に入れない人が2千3百万人増加するとの見込みを発表した。

 下院が作成した第一次案では、10年間で財政赤字が3370億ドル(37兆円)減るとされていたが、法案が修正され赤字の削減幅が小さくなった。

 現在、上院は下院とは全く別にオバマケア修正案の作成を急いでいるが、下院案より高齢者や既往症のある人を保護する内容になるとみられている。

 上院案と下院案の調整は容易ではないとみられており、今後の行方が注目される。


トランプ大統領、支持率40%を切る

2017年05月17日 | 日記

 2017年5月16日(火)、ギャラップの世論調査でトランプ氏の支持率が38%にまで低下したことが明らかになった(不支持57%)。これは大統領就任以降の最低水準。

 今朝は、トランプ氏がコーミー前FBI長官に対し、フリン前大統領補佐官とロシアの癒着疑惑の捜査を中止するよう要請していたことも伝わり、支持率のさらなる低下が予想される。

 5月25日にはモンタナ州、6月20日にはジョージア州とサウス・カロライナ州で下院補欠選挙(special elections)が予定されており、結果が注目される。


アメリカで失業保険の新規申請が1969年以来の低水準に!: それでも賃金が上がらない理由は?

2017年05月16日 | 日記

 アメリカで失業保険の新規申請件数が1969年末と同じ水準にまで低下している。

 米労働省によれば、2017年2月最終週の申請件数は22万7千件。これは1969年12月最終週とほぼ同じ水準で、実に47年ぶりのことになる。

 しかし1969年と今では、大きく異なることがある。

 1961年2月から1969年12月までの景気拡大期において、物価上昇率(PCE)は今とほぼ同じ2.2%だが、平均時給の伸びは今の二倍近い4.9%だったという違いである。

 人口増加などを考えれば、1969年より今の方が失業保険の申請(率)は減っている。しかし、賃上げがともなわないのである。

 どうしてなのか?

 少し前に、この理由について分析した論文(pdfファイル)を公表した。手前みそになるが、とくべつな専門知識がなくても理解しやすい論文だと思う。

 アメリカでは、失業率が下がっても賃金が上がらないことをスラック(家庭や職場に存在する過剰労働力)から説明することが多いが、論文は、それ以外に労働分配率の低下が大きく影響していることを明らかにしている。

 もし論文のとおりであれば、アメリカでは今後も、賃上げは穏やかな形でしか進まないことになる。

 この問題は日本も抱える問題である。

 興味のある方は参照いただければと思う。