2017年5月23日(火)、トランプ政権は2018年度(2017年10月-2018年9月)の予算教書を公表した。
政府が予算案を作成する日本と異なり、アメリカでは議会与党が予算案の作成をおこなうが、そのガイドラインを指し示すのが予算教書である(ただしなんの法的強制力もない)。
今回の予算教書は、10年間で政府支出を3.6兆ドル(400兆円:1ドル=110円)削減するとしており、ワシントンポストは実現すればアメリカ史上最大の支出削減となるとしている。
支出削減のおもな対象は福祉。
1)アメリカには貧困層が無料で加入できる医療保険メディケイドというものがある。またメディケイドに加入できるほど低所得でないが、医療保険に入れるほど所得が高くない家族の子供に医療保険を提供するプログラム(CHIP)がある。このふたつの加入者は7千4百万人(2016年)であるが、この予算を2018年度に約20%削減する。
2)アメリカは貧困層に食料購入用のデビッドカードを支給しているが(受給者約4.4千万人)、この予算を2018年度に約30%削減する。
これらのプログラムの削減により10年間で1兆ドル(110兆円)の支出削減になるとされている。
このほかにも、子供のいる貧困家庭向けの手当て(TANF)、失業保険、低所得者に税金を払い戻す税額控除制度(ETIC)、障がい者年金(SSDI)などの予算が大幅に削減される(ワシントンポスト)。
今回の予算教書でもうひとつ注目されるのが、実現不可能な3%という経済成長率を前提に税収入の計算がおこなわれていることである。
予算教書は2021年に経済成長率は3%に達し、2027年までその水準を保つとしている。しかしCBOは今後10年の経済成長率は1.9%と予想しており、連邦準備銀行の予想も1.8%となっている(ウォールストリートジャーナル)。
経済成長率がいつもお手盛りの日本と異なり、アメリカの予算教書はこれまでCBOの予想とまったく同じではないにしても、それと大きく異なることはなかった。しかしトランプ氏は就任直後からひたすら経済成長率は3%になると主張しており、それを押し通したかたちになった(NYT 2017/2/28)。
この前提により、歳入は2016年の3兆2680億ドル(360兆円)から2027年の5兆7240億ドル(630兆円)に増加し、2027年の予算は黒字になるとしているが、ウォールストリートジャーナルを含め米主要メディアはこれを非現実的とこぞって批判している。
税制改革案もそうだが、この予算教書もあまりに極端すぎてこのまま実現するとはとうてい考えられない。共和党上院がこれをそのまま受け入れることはないだろう。
米メディアでは、議会共和党がトランプ氏と距離を取り始めたとの指摘が増えているが、予算の行方を引き続き注視していきたい。