大野威研究室ブログ

おもにアメリカの自動車産業、雇用問題、労働問題、労使関係、経済状況について、最近気になったことを不定期で書いています。

経済と株価のかい離

2020年05月11日 | 経済

 コロナの影響で急速に経済が悪化する一方、多くの国で株価の上昇が続いている。

 とくに株価上昇が目立つのがアメリカ

 下の図は2020年5月7日(木)の株価が昨年末(2019年末)の株価の何%まで回復しているかをしめしたもの。

 S&P500は昨年末の9割近くまで値を戻し、ハイテク株の多いNASDAQは年末株価をわずかに超えるまでに回復していることがわかる。

  

 下の図は、インターネット関連のハイテク銘柄の株価をしめしたもの。

 テスラ、NVIDIA、アマゾン、マイクロソフト、アップル、Facebook、グーグルはすでに昨年末の株価を超えている

 とくに株価上昇が目立つのがテスラ。テスラの時価総額は、GM、フォード、FCA(フィアット・クライスラー)全部を合わせた額より大きくなっている。

 NVIDIA(エヌビディア)とアマゾンの株価も年末より3割近く高くなっている。

 株高の背景としては、景気はすでに底をうち、これから急速に景気回復が進んでいくと考える人が多いことがあげられる。

 各国中銀の無制限の資金供給により利回りが低下し、行き場をうしなった資金が株に流れ込んでいるとの指摘もある。

 しかしそれでも、このような株高に違和感を感じる人は少なくない。

 私の専門分野である雇用についていうと、アメリカの雇用者数純増に転じるのは年後半で、コロナ前と同じ雇用者数にもどるには数年かかるとみられている。

 現在の株価上昇がどこまで続くのか、株価上昇を追うかたちで経済も急回復していくのかどうか、ひきつづき注意してみていきたい。


米失業率、戦後最悪を記録

2020年05月09日 | 経済

 2020年4月のアメリカの失業率は、先月から10.3%上昇して14.7%と戦後最悪になった(失業者数約1,600万人増加)。

 5月にはいってからも毎週300万人以上のひとが仕事を失いつづけており、5月の失業率はさらに悪化することが予想されている。

 こうしたなか、以前のブログで書いたようにアメリカでは現在、月30-40万円以上の失業手当がでているほか(個人請負の人ももらえる)、中小企業に対して8週間分の賃金・賃料・光熱費の補償がおこなわれ、外出禁止の影響を緩和している。

 ほかにもアメリカでは、家賃不払いを理由とした借家人の追い出しを一時的に禁止する法的措置や金融機関によるローン支払いの一時免除などがおこなわれている。

 このような日本からすれば信じられないような手厚い補償によって、アメリカの人々の生活はなんとか支えられている。

 気になるのは、この手厚い補償がいつまで続くかである。

 大統領選挙があるといっても、選挙のある11月までこのような措置を続けるのは財政的に困難である(中小企業への8週間分の支払いだけで70兆円以上かかっている)。

 このようなことから経済再開が急がれているが、手厚い補償をつづけられるうちに雇用(経済)は以前の何割ぐらいまで回復するのであろうか。

 経済回復のスピードについては楽観的な見方と悲観的な見方の両方がある。

 米経済回復の様子をひきつづき注意してみていきたい。


ドイツ、時短勤務が急増

2020年05月02日 | 経済

 ドイツで、新型コロナウイルスの影響で時短勤務する人が労働者全体の1/4近くにまで急増している。

 前のブログで書いたように、解雇の多いアメリカ月30-40万円以上の失業手当をだして失業した人の生活を支えようとしている。

 一方、なるべく解雇を増やさないようにしているのがヨーロッパ諸国。

 たとえばドイツは仕事が減ったとき、人でなく労働時間を減らして失業を避けようとしているワークシェアリング)。

 このためドイツでは、景気悪化で労働時間が減った場合、それによって減った賃金の60%(扶養家族がいる場合は67%)を政府が支給する仕組み(Kurzarbeit)がつくられている。失業保険の一種である。

 この仕組みをつかってドイツでいま時短勤務をする人は約1000万人。全労働者が約4.5千万人(日本は約5.7千万人)なので労働者の1/4近くが時短勤務していることになる。

 この仕組みによりドイツの4月の失業率は5.8%におさえられている(3月からわずか0.7%の上昇)。一方、アメリカでは4月の失業率は15%近くになるとみられている(3月から10%近く上昇)。

 私は、雇用調整助成金(休業して労働者に通常の6割以上の給与を支給した場合、1日8330円を上限に支給額の9割を国が補填する)に加えてこの仕組みを日本にも導入すべきと思っているが、労使ともにそのような機運はまったくない。

 私は20年ぐらい前、岡山県で厚労省が主催する政労使会議?(いまはない)に学識経験者として出たことがある。

 アジア通貨危機の直後で雇用が大きな問題になっていたときである。

 私はドイツのワークシェアリングのしくみを説明して、こうした方法で雇用を守る方法もあると発言したが、労働者代表の方から「賃金が減らされる」と猛反発されたことをいまでもよく覚えている。

 日本はバブル崩壊以降、欧米に追いつく過程で雇用が増え続ける発展型社会から、景気変動で雇用が大きな増減を繰り返す成熟型社会に変化した。

 ほんらいであれば、それに合わせて雇用維持・生活保障のしくみ(セーフティーネット)も変えていかなければならないが、それがなかなかうまくいっていない。

 緊急事態宣言がさらに1か月ほど延長されるようだが、これからの雇用のゆくえが少し気がかりである。

 

2020年5月9日追記

 アメリカの4月の失業率は14.7%となり戦後最高を記録した。