近くの書店がリニューアルしたのでよってみると新しい詩歌の書架に歌集が並んでいた。しかしまだまだ詩歌の本はすくない。その中から今までになかったことなので二冊買ってみた。
歌集『滑走路』 萩原慎一郎著 角川文庫振興財団
若くしてこの世を去った歌人萩原慎一郎の不運な高校時代に受けた心の傷をいやしたのは短歌であった。この歌集の上梓を目前にして急逝した純粋なひとりの若者の心の叫び、青春の挫折と苦悩がいっぱいで心が痛い。32歳。口語ののびやかな歌は今、宙を飛び交っているのだろうか・・
◎ 非正規という受け入れがたき現状を受け入れながら生きているのだ
◎ 箱詰めの社会の底で潰された蜜柑のごとき若者がいる
◎ 傷ついてしまったこころどぼどぼと見えぬ血液垂れているなり
◎ ノートには青春時代の悩み事ぎっしり詰まって柘榴のごとし
◎ 疲れていると手紙に書いてみたけれど僕は死なずに生きているのだ
◎ 目の前をバスがよぎりぬ死ぬことは案外そばにそして遠くに
◎ 君のため用意されたる滑走路きみは翼を手にすればいい
社会の隅でもがき、苦しんでいる若者の姿が見えるようで切ない歌集である。