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肉食の系譜
ヴェロキサウルス (ノアサウルス類の足)
ヴェロキサウルス・ウニクスVelocisaurus unicusは、白亜紀後期サントニアンにアルゼンチン・パタゴニアのネウケン州に生息した小型のノアサウルス類で、Bonaparte (1991) によって記載された。Bonaparte (1991)は、ケラトサウリアの中にヴェロキサウルス科を設けた。後に複数の研究者によって、ヴェロキサウルスはノアサウルス科に近縁と考えられるようになった。
ヴェロキサウルスのホロタイプ標本は、ほとんど完全な右後肢(大腿骨はない)である。その後、同じ特徴をもつ第2標本が発見されたので、Brissón Egli et al. (2016)によって記載されている。第2標本には大腿骨、脛骨、中足骨、趾骨が含まれているが、中足骨はホロタイプよりも不完全のようである。
ヴェロキサウルスは、後肢だけのノアサウルス類である。どうして後肢だけでノアサウルス類と判定できるのか。というよりも、これを見ればノアサウルス類の後肢の特徴がわかるはずである。
Brissón Egli et al. (2016) によるとヴェロキサウルスは、以下の形質の組み合わせによって識別される。
1)大腿骨の近位端の断面が強く亜三角形で、外側面と内側面が前方で合流して厚い稜crestをなしている。
2)脛骨はコエルロサウルス類のように細長く、その遠位端の前面が平坦で、高く幅広い距骨の上行突起と結合するための広い面となっている。
3)第IIと第IV中足骨は棹状rod-likeで、他の小型のアベリサウロイドの板状laminarの中足骨と異なる。
4)趾骨IV-1は前後に短く背腹に高く、背側部分が側扁していて内側にカーブしている。
1)大腿骨について:カルノタウルスのような多くのアベリサウロイドでは、他の獣脚類と同様に大腿骨の断面は卵形である。マシアカサウルスでは、大腿骨の近位半分の断面が亜三角形で、その頂点が前方を向いている。Evans et al. (2014) はモロッコのケムケム産の分離した大腿骨をノアサウルス科としているが、この大腿骨も近位の断面が亜三角形である。この点でヴェロキサウルスはマシアカサウルスとモロッコの標本によく似ている。しかしヴェロキサウルスでは、前方の頂点が非常に厚く、長軸方向に伸びた稜をなす点がユニークであるという。
2)脛骨について:ピクノネモサウルス、インドスクス、マジュンガサウルスのようないくつかのアベリサウロイドでは、脛骨の遠位端に距骨の上行突起と関節するための斜めの稜がある。これは基盤的テタヌラ類と共有する原始形質であるという。アウカサウルスのような他のいくつかのアベリサウロイドとヴェロキサウルスでは、距骨の上行突起が幅広く、遠位端の前面のほとんどを占めていたと考えられる。これはコエルロサウルス類にみられる状態である。ヴェロキサウルスでは、距骨の上行突起そのものは保存されていない。しかし遠位端の前面は顕著に扁平で、距骨の上行突起のための非常に丈の高い三角形の関節面となっている。Bonaparte (1991) も非常に大きい三角形の上行突起を復元している。このような形態は他のアベリサウロイドにはみられないもので、デイノニコサウリアやオルニトミムス類のような派生的なコエルロサウルス類のものとよく似ている。(アウカサウルスでは上行突起が四角形)
3)中足骨について:Bonaparte (1991) はヴェロキサウルスの特徴として、中足骨の独特のプロポーションをあげている。ヴェロキサウルスでは第IIと第IV中足骨が細くなり、第III中足骨の幅が第IIと第IV中足骨の幅の3倍以上ある。Bonaparte (1991)はこの独特の中足骨の形態は、おそらく現生のレア科にみられるような極端な走行性と関連していると考えた。一方Carrano and Sampson (2008) は、この形質はノアサウルス科に広くみられるとした。実際、エラフロサウルス、マシアカサウルス、ノアサウルスは横方向に圧縮された板状laminarの第II中足骨をもつ。しかしヴェロキサウルスでは、第II中足骨の軸は棹状rod-likeで、断面が亜卵形subovalであるという。それがヴェロキサウルスの固有の形質というわけである。
まあ第III中足骨に対して第IIと第IVが細くなっている、と捉えれば、ノアサウルス科に共通しているとはいえるのだろう。
この幅の狭い第II中足骨については、系統解析に関連してさらに詳しく論じている。
元々、ノアサウルスの原記載で、ノアサウルスを他の軽快な獣脚類と区別する特徴が、この幅の狭い第II中足骨であった。その後Carrano et al. (2002) (マシアカサウルスの記載)はこの形質を、ノアサウルスとマシアカサウルスを結びつけるノアサウルス科の共有派生形質と考えた。これがその後の多くの系統研究に用いられている。
しかしラヒオリサウルス、スコルピオヴェナトル、アウカサウルスのようないくつかのアベリサウルス類では、第II中足骨の近位半分の幅が狭くなり、板状に近づいており、ノアサウルスの状態と似ているという。そのためNovas (2009)は、幅の狭い第II中足骨はアベリサウルス上科全体の特徴かもしれないと考えている。一方でマジュンガサウルスやラジャサウルスのような一部のアベリサウルス類では、第II中足骨の近位端は広く、全く狭くなっていない。この形質はアベリサウルス上科の中で従来考えられたよりも複雑な分布をしているかもしれないと述べている。なるほどアベリサウルス科の中でも、スレンダー型とがっしり型では異なる傾向を示すというのは興味深い。
Brissón Egli et al. (2016)は、ヴェロキサウルスとノアサウルスやマシアカサウルスとでは断面の形状が異なることから、この形質をノアサウルス科の共有派生形質とみなすことには注意が必要であるといっている。
しかし前述のように、エラフロサウルスの論文の系統解析では、ヴェロキサウルスはノアサウルスやマシアカサウルスと同様に幅の狭い第II中足骨をもつとしている。板状とか棹状といっても定量的に定義しないと仕方がないので、数値で分けたようである。
参考文献
Federico Brissón Egli, Federico L. Agnolin & Fernando Novas (2016) A new specimen of Velocisaurus unicus (Theropoda, Abelisauroidea) from the Paso Córdoba locality (Santonian), Río Negro, Argentina, Journal of Vertebrate Paleontology, 36:4, e1119156, DOI: 10.1080/02724634.2016.1119156
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