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アロサウルス・ジムマドセニ2021



「アロサウルスを描きました。」「どっちですか。」
アロサウルスを正確に描きたい人にとっては、最初に設定を意識しないといけない時代になったのか。涙骨の角状突起から鼻孔の上まで連なるトサカ状の稜、頬骨の下側にあるかくっとした角状の突起。この2つはアロサウルスなら当然、両方備えているはずだった。ところが、どちらか選べということである。鼻骨のトサカ状の稜を描きたければ、頬骨はなめらかにしてジムマドセニ。頬骨の突起を描きたければ、鼻骨のトサカはなくてフラギリス。北アメリカのアロサウルスについてはそうなってしまった。もし両方の特徴を描くと、なんとポルトガルのアロサウルス・エウロパエウスになってしまう。

アロサウルス・ジムマドセニの存在は何年も前から知っていたし、ビッグ・アルがそうらしいとも聞いていた。しかしChure and Loewen (2020) によって初めて正式に、ジムマドセニのホロタイプ標本DINO 11541と、 ビッグ・アルMOR693 が新種として記載された。またビッグ・アル2 SMA 0005 もジムマドセニとなった。最近の図鑑などではビッグ・アル2のイメージでアロサウルス・フラギリスと書かれることが多かったと思われ、急速に訂正されるだろう。ビッグ・アル2についてはスイスの化石発掘会社が発掘した関係でスイスの博物館にあり、ドイツの研究者によって記載される予定という。

アロサウルス・ジムマドセニの特徴は以下の形質の組み合わせからなる。1)上顎骨の前眼窩窩の腹側部分に、一列の神経血管孔がある。2)上顎骨の頬骨突起の後端(頬骨と関節する部分)がまっすぐである。3)鼻骨の外側背側縁が、前上顎骨から涙骨まで連なるブレード状のトサカをなす。4)鼻骨の背側面の後方部分が杯状で、前頭骨との関節部で正中の頂点をなす。5)アロサウルス・フラギリスと比較して、涙骨の角状突起が高い。6)頬骨の腹側縁が比較的まっすぐで、背側から見てもまっすぐか、わずかにカーブした輪郭である。7)軸椎の間椎心が背側に回転している(前背側を向いている)。また前方が拡がっている(flared)。

6)が最もわかりやすい点で、2)も関連した特徴である。アロサウルス・ジムマドセニでは、頬骨の腹側縁が多くの基盤的な獣脚類と同様に直線的で、アロサウルス・フラギリスとアロサウルス・エウロパエウスに特徴的な腹側の屈曲を示さない。
 Chure and Loewen (2020) はアロサウルス・ジムマドセニでは頬骨が前眼窩窓に達していないといっている。ただし頬骨も涙骨も薄く、保存状態などによって多数のひびが入っているので、この解釈は難しいといっている。

3)も明確に述べている。アロサウルス・ジムマドセニでは鼻骨の背側外側の縁が上を向き、低いがはっきりした鼻骨のトサカをなしている。このトサカはアロサウルス・ジムマドセニとアロサウルス・エウロパエウスにはあるが、アロサウルス・フラギリスにはない(USNM 4734, DINO 2560などの標本)。またシンラプトル、ネオヴェナトル、アクロカントサウルス、カルカロドントサウルスにもないという。ただしこれらの種類では前眼窩窩の上に突き出した分厚い稜はあるといっている。
 論文ではジムマドセニとフラギリスの頭骨を斜めから見た写真を載せている。これを見ると確かに、ビッグ・アルやビッグ・アル2では涙骨の角の前方にも鼻骨のトサカがずっと続いているが、USNM 4734とDINO 2560では鼻骨のトサカはないように見える。ただしフラギリスやシンラプトルなどでも稜がないわけではない。これらでも鼻骨の側方が前眼窩窩の上に棚状に張り出しているので、横から見て稜には見えるはずである。ここで論じているのは、鼻骨の稜が上方に薄く伸びてブレード状のトサカになっているかどうかということである。

特徴の7)は、多くの方は興味がないかもしれないが、シンラプトルと同じ特徴である。メトリアカントサウルス科の「シンラプトル2018 (2)」の記事を参照されたい。

アロサウルス・ジムマドセニのホロタイプ標本は小柄で、失われた尾椎の推定も含めて全長5.6 mであるという。この成長段階については、すべての仙前椎(頸椎と胴椎)で神経弓と椎体の縫合線が閉じていないこと、尾椎も閉じていないことから、まだ成長が止まっていない亜成体と考えられた。しかし頬骨が直線的というジムマドセニの特徴は、クリーブランド・ロイドの様々な成長段階の頬骨と比較しても、成長段階とは関係ない特徴であるという。



参考文献
Chure DJ, Loewen MA. 2020. Cranial anatomy of Allosaurus jimmadseni, a new species from the lower part of the Morrison Formation (Upper Jurassic) of Western North America. PeerJ 8:e7803 DOI 10.7717/peerj.7803
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