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アロサウルスの頰骨


私はいろいろな肉食恐竜の頭骨模型を持っていて、比較してながめるのが好きなのだが、これは目からウロコだった。皆さんはご存知なのかどうかわからないが。

有名なマドセンのアロサウルスの頭骨復元図に、重要な誤りがあったという研究である。これはグレゴリー・ポールなどのアーティストは気づいていたらしいが、学術的には最近まで全く訂正されていなかったという。実物標本を観察して訂正したのはEvers et al. (2020)が最初ということである。



Madsen (1976) はアロサウルスの記載の集大成で、多くはクリーブランド・ロイドの分離した骨に基づいているが、一部関節状態のものも参考にしている。その有名な頭骨復元図を見ると、頰骨が前眼窩窓に達していないのがわかる。
(基本の説明:眼窩の前方にある大きな穴が前眼窩窓。貫通した穴を前眼窩窓antorbital fenestra といい、その周囲にある浅いくぼみ(骨の部分)を前眼窩窩 antorbital fossa という。前眼窩窩は上顎骨のほか、涙骨や頰骨の上にも達している。)



頰骨が前眼窩窓に達しておらず、涙骨と上顎骨が広く接しているのが側面から見えている。涙骨の腹方突起と上顎骨の後方突起が結合しているのは多くの獣脚類と共通だが、アクロカントサウルスなどほとんどのテタヌラ類ではその外側を頰骨の前方突起が覆っている。アロサウルスだけが変わっていることになっていた。頰骨が前眼窩窓に達していないのはコエロフィシス類やケラトサウルス、アルバレスサウルス類のハプロケイルスくらいであるという。



Madsen (1976)に基づいて制作されたと思われるアロサウルスの頭骨模型では、確かにそのようになっている。私はフェバリットのアロサウルス頭骨はたまたま持っていないが。




Copyright 2020 Evers et al.

ところが、Evers et al. (2020)が様々なアロサウルスの頭骨の標本を実際に観察し、保存の良い分離した骨で関節面の構造などを検討した結果、なんとアロサウルスでも頰骨の前方突起は伸びて広がっており、前眼窩窩があった。そして前眼窩窓に達しているので、側面からは涙骨と上顎骨の結合は見えない。つまりアロサウルスでも他のテタヌラ類と同様であることが初めてわかったことになる。
 しかも、アロサウルス・ジムマドセニ、アロサウルス・フラギリス、アロサウルス・エウロパエウスのどれもそうであるという。アロサウルス・エウロパエウスでは、この頰骨の状態がフラギリスと異なることが、種の特徴の一つとされていた。今回の比較でエウロパエウスの状態は何も特別なものではなく、固有の特徴ではないことがわかった。

なるほどいろいろな頭骨模型を見ると、確かにアロサウルスだけが違っていた。Madsen (1976)ほどの専門家が多数の実物化石を見て記載した図に対して、誰も反論できなかったということだろう。しかし何十年も確定したかのように見えても、覆ることもあるということは、若手の研究者にとっては励みになるだろう。
 不思議なことにMadsen (1976)は、分離した頰骨を記載するときには伸びた前方突起を描いているという。復元頭骨だけが誤っていた理由は不明であるという。


参考文献

Evers SW, Foth C, Rauhut OWM. 2020. Notes on the cheek region of the Late Jurassic theropod dinosaur Allosaurus. PeerJ 8:e8493 DOI 10.7717/peerj.8493
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