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スクレロモクルスの復活


何が復活なのかというと、翼竜の祖先に近い動物として、復活した。

スクレロモクルスは、100年以上前にスコットランドで三畳紀後期の地層から発見された20 cmほどの小型の爬虫類で、後肢が長く二足歩行に見えることから、古くから恐竜あるいは翼竜の祖先と想像されてきた。スクレロモクルスは、若い人よりもおっさん世代の恐竜ファンの方が馴染み深いかもしれない。昭和の恐竜本では、よく木に登ったり地上を走ったりしていた動物である。7個体の骨格が知られているが、非常に小型であるうえにつぶれており、詳細な解剖学的特徴を定めるのが困難であった。その復元姿勢や行動様式については、二足歩行か四足歩行か、這う姿勢か直立姿勢か、地上性か樹上性かなど多くの議論があった。つい最近は、走行性ではなくカエルのように跳躍する主竜形類とする研究が提唱されていた。つまり恐竜や翼竜とはかけ離れた系統上の位置になっていた。それが、今月になって翼竜形類つまりラゲルペトン類に近い動物として復帰したのである。

スクレロモクルスの化石は岩にへばりついた印象化石のようなもので、骨の立体的な形態を論じるには多くの困難があった。これまでの研究は表面から2次元的に観察したものだった。Foffa et al. (2022) は模式標本をマイクロCTでスキャンし、初めて全身骨格の3次元再構築を行った。その際、まだ母岩に埋もれていた足の指骨、肋骨、尾椎などが新たに発見され、それらを元にこれまで知られていなかった形態学的特徴が得られた。例えば肋骨は、従来の想定よりも3~4倍も長いことがわかり、胴はカエルのように扁平ではなく、丈が高いことがわかった。頭骨も上下につぶれているが、復元するとかなり丈が高いと考えられた。完全な足は初めて得られたものであり、第4指が最も長くラゲルペトン類と似ていた。

系統解析の結果、スクレロモクルスは少なくとも8つの共有派生形質で翼竜形類(ラゲルペトン類+翼竜類)に属することが支持された。上顎骨の上行突起の基部が凹型、第1中手骨が細長い、恥骨が大腿骨の50%より短い、大腿骨頭がカギ形hook-shaped、第5中足骨が短い、などである。足根部の構造はマイクロCTを用いてもはっきりせず、ワニ型とも恐竜型とも解釈できる。ほとんどの解析結果では、スクレロモクルスは基盤的なラゲルペトン類に含まれた。足根部がワニ型とスコアした場合でも、スクレロモクルスは翼竜形類全体と姉妹群となった。

過去の研究で四足歩行、這う姿勢、カエルのような跳躍性とする説の多くは、不完全なデータ(短い肋骨、扁平な胴と頭骨)やあいまいな解釈(足根部)に基づいたものであるという。またスクレロモクルスは、樹上性の動物がもつ形質(曲がったカギ爪や長い指など)は示さない。スクレロモクルスは後肢の長さに対して腰帯が小さいが、カエルやトビネズミのような跳躍性の動物は、小型であっても大きな腰帯と筋付着部をもっている。
ただし前肢と後肢の長さの比率は四足歩行と二足歩行の中間であるなど、はっきりしない点もある。著者らはスクレロモクルスは、指行性、地上性、走行性であり、少なくとも条件的二足歩行であっただろうとしている。

論文には立派な復元画があるが、羽毛も生えて小鳥のような可憐な姿になっている。2020年に扁平なカエル形の動物だったものが、2022年にここまで劇的に変わるとは、話が違うじゃないか、という感じである。古生物の復元がいかに難しいか、というありがちな文言を言わざるを得ない。姿勢に関係する大腿骨頭や膝関節のあたりも、今回のマイクロCTで情報が得られた部分らしいので、やはり3次元の威力ということか。


参考文献
Foffa, D., Dunne, E.M., Nesbitt, S.J. et al. Scleromochlus and the early evolution of Pterosauromorpha. Nature (2022). https://doi.org/10.1038/s41586-022-05284-x
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