今回、はじめて犀川を散歩した。犀川というのは、けっこう昔から、いちどは行ってみたひとおもってひた河である。
実家に日本文学大全集なる本が飾り物で並べられているのだが、小学校の三年生頃から僕はひまだったので、これをたくさん読んだものだった。
そのなかに、室生犀星の作品もあって、そのころから、犀川に憧れてひたものだった。その作品の中には、犀星の幼少時の私小説があり、主人公が母親と生き別れて、お寺の養子にもらわれ、本堂で仏さんに母親が幸せになれますようにと一生懸命に祈るシーンにずひぶん涙したものだ。
犀川の散歩したあたりには、川沿いにお寺がたくさんあり、犀星がもらわれたお寺もその中のひとつなのだろふ。犀星の道などといふ小路もあるひてみたが、詳しく知ろうとはおもはなかった。資料館などもあったが、ただ、昔ながらの風景があちらこちらに残っていて、それだけでもう充分であつた。
たそがれゆく金沢で目にした紫陽花は、東京や大阪で見るそれとは明らかに違った。凛としていて美しい。おそらく同じ種類のガクアジサイなのだろうが、見る自分の心が透明化して格段と美しく見えたのであろふ。金沢といふ街は、旅人をそういふ風にさせてくれる街なのだ。