不思議。
吉田稔騎手は、不思議と大きく見える。
無論、レースの中での存在の大きさや周りに放つオーラのようなもののせいでそう見えるというのも間違いではないでしょう。
ただ大きく見えるとはいっても、相撲取りのような巨漢に見えるということではなく、ギャロップ(レース中の馬を全速で走らせている状態)のとき、まるで普段パドックで見ているような実際の小柄な背丈のジョッキーとは思えないほどに”手足が長く見える”という感じでしょうか。。。
それはやはり、いかに体中の指先から足の先に至るまで、しなやかに無駄なく動かされているということでしょうね。。。
彼のあのマジックとも思える騎乗の秘密、またそこに美しさすらを感じさせる理由は、もしかしたらそんなところにあるのかも知れません。
私は昔モーグルという競技を齧っていましたが、どんなスポーツにおける運動においても、最も重要となるのは腰の動きやポジション(バランス)、また太腿からヒザにかけての下半身の使い方であるということは同じでしょう。
そしてそれを補うのが(イメージとして)、肩からヒジにかけての上体の動きとなります。
小手先だけで何とかなるのは、それは非常にレベルが低い争いでの話。
競技や種目によって使い方はそれぞれ異なるにせよ、あくまで基本はその体の中心である腰やヒザといった部分であったりします。
(必要最低限の基礎体力は、もちろんそれ以上に必須ですが。。。)
ただ、逆に非常にレベルが高いところでの話になれば、またそれは別の話になります。
基本的な部分をしっかり押さえられたとして、さらに一流と三流の差が出るところというのは、”小手先の非常に繊細な部分”となってくるのではないでしょうか。
どんな競技、種目、球技とて、そこでは100分の1秒以上のミクロの世界で戦いが行われています。
例えば、野球の投手の指先から放たれるボールの瞬間、打者がボールを捉える瞬間、などなど。。。
超高速カメラを使って見てみれば、その脅威の精密さが良く分かります。
それは、他のどんな競技においても同じ。
そこでは、人間の動作がいかに不器用でいい加減であるかという事実以上に、集中力が発揮された卓越したアスリートの動きがいかに素晴らしく精密に行われているということが分かるでしょう。
恥ずかしながら私は馬に跨ったことは一度きりしかありませんが、”馬を追う”ということに関しても、そういったミクロの世界での微妙な動作というのが一流と三流の差を生み出しているのではないかと考えます。
特に、馬というのは生き物です。
一頭一頭”大きさ”も”体のつくり”も、はたまた性格やクセだって違うでしょう。
それらに機敏に反応していけるような繊細さが、きっと一流ジョッキーにはあるに違いありません。
騎手がギャロップ状態の馬とコンタクトできるのは、手綱(たづな)と鐙(あぶみ)[厳密に言えばヒザから下]の部分のみ。
レースの激しい動きの中で、それらの部分の繊細で微妙な操作によって、きっと一流ジョッキーの”マジック”のような騎乗が生み出されるような気がします。
私達のような素人には、馬に対して「進め」、「止まれ」、「曲がれ」、「走れ」くらいの少ないギアしか持ち得ません。
しかしながら、きっと一流ジョッキーにでもなれば、同じギャロップの中でも3つも4つもギアがあるに違いないでしょう。
さらに超一流になればなるほど、その数は多くなるものなのかも知れません。
記憶に新しいのは、「スーパージョッキーズトライアル2007」名古屋ラウンドでの的場文男騎手のグローイング号での逃げ切り勝ち。
あれは道中、私達では到底分かり得ないような的場騎手ならではの”いくつものギアチェンジ”がきっと行われていたのでしょうね。
吉田稔騎手が乗ればなぜか走る。。。それも多分、紐解いていけばそういったことと同様の秘密があるのでしょう。
思えば、レース中のジョッキーというのはそれだけではなく、さらに馬の力量を考えたペース配分や位置取り、展開を読んだかけひきなんかもレースの中で瞬時にしているのでしょう?
レース中において考えるべきことは、むしろそちらの方が重要。
少なくとも、上記に述べたフィジカルなテクニックの問題なんか頭で考えている余裕なんてないでしょうから、既に数多くの経験から体に沁み付いているものなのでしょうね。
かといって何も考えていなければ、いつまでも上達だってしないのでしょうし。。。難しいところです。
あの天才と呼ばれる中央の武豊騎手ですら、自身のテレビ番組の中で「今と10年前では騎乗法(フォーム)を変えている。」なんて言っていました。
あんな超一流ジョッキーでも、少しずつチャレンジしながら自らの騎乗法を改良しているということでしょうか?
ホントに凄いことです。。。
そういえば、話に出てきた大井の的場文男騎手。
彼の馬を追い出した時のフォームも、独特ですよね。
腰を上下に揺さぶりながら、手綱を扱いています。
あれが噂の”的場乗り”???
ギャロップ中に、よくあんなことできるものです。
南関東のジョッキーの中では、他にも最近よく見かける乗り方です。
名古屋では、あまり見ないかなぁ・・・。
追い出して腰が沈むのは当然ですが、あんなに上下に激しく動かす騎手はいませんね。
あれって、どんな意味があるのだろう?
やらない時もあるし・・・。
掛かりが悪い時?
う~ん、不思議。。。(笑)
それでは、また。