ヒガンバナに寄せて

2006-09-18 23:36:19 | 徒然に


ヒガンバナが咲いている
赤ではなく、濃い黄色がまぶしい

久しぶりに以前足げく通ったスナックに足をのばした
バブルの頃は職人さん達でにぎわっていた飲み屋の連なっている
一角にそのスナックはある
商店街は、何処の地方都市のはずれにありがちな、シャッターを降ろした
店が目立つ閑散とした静かな街並みだ

この一角も一頃はそれはそれは、賑やかな活気に満ちた処だった
仕事で遅くなり、終電車で帰って来ても、走ってタクシーの列に並ぶような
元気すら残っておらず
改札口を出ても、タクシーは出払っていて、ポツンと一人タクシー乗り場で
何時来るとも知れぬタクシーを待つ

タバコが切れたので、駅前の自販機を覗くと、目当てのタバコが売り切れている
しかたなく、ふらふらと商店街に向かって歩き出す
少し歩いたが、タバコの自販機は無い
次の角の左手に、明るい灯りを見つけて、ふらりと曲がる
そんな風にして、初めて踏み込んだ飲み屋街だった

自販機は無い、仕方なく飛び込んだ賑やかなスナック
ビールを頼み、タバコはあるかと聞き、火をつけてふうぅっと、一息する

先客達を見ると、作業服を着た職人さんばかりだ
そのなかに、狸顔の人なっこいポロシャツを着た私と同年配の客がいた
なんと、綺麗な女の人に挟まれてえびす顔である
それが私と彼が会った初めての夜だった

こっちは、仕事で疲れて、素面だし、ネクタイにスーツ姿だ
職人のお兄さんが、うさんくさそうに、上目遣いでちらりとこちらに一瞥をくれる

「にいさん、あんた税務署の人じゃないの?」
えっ、
考えもしない言葉に、飲みかけのビールが鼻に廻って、つぅんとしながら
「いえ、そんなに、偉い人ではないんです、安サラリーマンですよ」
と、
慌てて返事をする
それまで、他の客についていたチイママとおぼしき女の人が寄ってくる
「うん、税務署のGメンの雰囲気だ」
と、顔をじろじろと見ながら、可笑しそうに笑いかける
慌てて、またビールのグラスを口に運ぶ
・・・・
それ以来、私はそのスナックでは『Gメン』と呼ばれるようになった
くだんの狸顔のお客とも、アチコチ飲み歩いたり、馴染みの客と一緒に温泉に出かけたりした

久しぶりに出かけたスナックは、珍しく誰もカウンターに座っていない
ほうれん草のお通しを出しながらママがしんみりという

「元気だったの?みんな歳だから、暫く顔を見せないと、心配で」
二の句がつげない、取り敢えずビールのグラスに手を伸ばす
「こうちゃん、胃ガンでなくなったのよ」
「えっ、あの狸が胃ガンになんてなるわけないだろう?」

狸顔は、胃ガンになっていけないわけはない
たけど、お前は胃ガンなんて似合わない男だろ
いいとこ取りばっかりして、俺たちがあくせく働いていたって
たいしたことしないのに、丸儲けしてるのに・・・
酒好きで、女が好きで、・・・

狸顔の寺の住職が死んだ
20年来の、飲み仲間の訃報を久しぶりに訪れたスナックで聞いた
オレより1つ若いのに、さき急ぎやがって・・・

違う世界で、酒を飲み、女を抱いて、オレの逝くのを待っていてくれ 合掌


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