ドラクエ9☆天使ツアーズ

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星空の守り人

2012年11月19日 | ツアーズ SS

その天使は、人間たちの世界を滅亡から救うために、

自ら天使であることをやめ、人間として地上に舞い降りた。

 

それがどういうことなのか、ミオには良くわからない。

 

自分の場合、人間をやめて、何か他のものになれるか?と考えてみても

人である自分を失くす、というそのことが、恐怖そのものでしかない。

 

ウイも同じだっただろうか。

 

天使としての何かを失くし、その虚無や恐怖のようなものに取り付かれて

目を覚まさないのではないだろうか。

ウイが眠り続けている間中、そんなことを考えていた。

だから。

 

絶対に、一人にはさせない。

 

自分をここまで導いてくれた人を、どんなことがあっても守りたい。

そのために力を欲した。

ウイが失ったものを埋めるために、自分が人ではない何かの力を得られるように、

強大な力が、どうしても欲しかった。

 

それほどまでに願った「奇跡」は、分不相応だったのだろうか。

 

ウイが目を覚ました。

一番に傍へ駆けつけて、一番に気持ちを伝える権利を譲ってくれたヒロとミカの二人は、

この事態を知らない。

 

部屋の中に入ったミオが見たものは、窓から身を投げようとしているウイの後姿だった。

 

 

 

 

■ ■ ■

 

「だめー!!!」 

「あ、ミオちゃ」

「やめてください!やめてください!だめです!そんなことしないで!!」

半ば恐慌状態に陥りながらも、ミオはウイの体に全力でしがみついた。

ほとんど、二人、窓から飛び出しそうな勢いだったけれど、他にどうしようもなかった。

それを。

「ふぎゃあーっ、いやーっ、ミオちゃん怖いー!落ちるー!!たーすけてー!!」

ウイの大絶叫に驚いたときには、もう二人の体は、窓の外へ大きく傾いていた。

 

落ちる。

 

ミオがそう思ったとき、強い力で、体は重力とは反対の方向に引き戻された。

一瞬何が起こったのかわからないまま、ミオはヒロの腕の中にいた。

「あっぶねー」

「何やってんだ、お前ら」

転落寸前の自分達を助けてくれたのだろう、ヒロを見て、同じようにウイを抱きとめているミカを見た。

…ミカに、しがみついているウイを見た。

「おー、怖かったよーう、ミオちゃんに突き落とされるのかと思っちゃったよー」

ああびっくりしたー、と、その口調はいつものウイと変わらない。

屈託なく、自由で伸びやかで、いつもどおりの軽快なウイだった。

窓の外を見てたんだよ、とミカに説明している様子をただ呆然と見ていて、ミオは、

自分がとんでもない勘違いをしていたのだと、やっと判る。

 

「ご、ごめんなさいっ、私、ウイちゃんが飛び降りるのかと思って…」

 

あまりの勘違いが恥ずかしくて、その場から逃げ出したくなる。

どうして今、そんなことを考えてしまったのか。

その失態を、ミカは呆れ、ヒロが慰めるように笑ってくれた。

「それだけミオちゃんが心配してたってことだよ」

と、ミオのとっさの行動をウイに説明してくれるヒロに助けられて、それがいつもと変わらなくて、

…安心した。

 

安心したら、涙が堰を切ったようにあふれて止まらなくなった。

 

「ミオちゃん、大丈夫、大丈夫だよ、心配しなくていいよ、大丈夫なんだよ」

驚いたウイが、あわてて傍へきて、気遣ってくれる。

優しく背中をなでられては、それがもう逆効果でしかなく、我慢できずに号泣した。

「わー、どうしようどうしよう!」

「ほらー、またウイが泣かせるー」

「ミオちゃん、大丈夫だよ、もう全然突き落とされるとか思ってないよ?」

「…いや、そこじゃねえだろ」

まあ好きなだけ泣いたらすっきりするよ、とヒロに手ぬぐいを渡されて、とめどなく泣いた。

その間、ウイはずっと抱きしめてくれていた。

おかげで、気持ちが落ち着いて嗚咽が収まりかけてくると、また恥ずかしくなる。

小さな子供みたいだ、とミオが自分でも呆れたとき、そうだ!とウイが声をあげる。

「大丈夫だよって、言ってあげられる所があるから、ちょっとウイに付き合って?」

と、ミオの手を取る。

え?と思うまもなく、ウイに手を引かれ、そのまま強引に部屋の外へ連れ出された。

部屋に残る二人が気になって背後を振り返ると、ヒロが手を振ってくれた。

 

 

 

■ ■ ■

 

「ウイねー、寝てた間のこととか全然覚えてないんだけど」

心配させてゴメンね、と何度も謝ってくれるウイと手をつないで、歩いた。

大きな建物をゆっくりと移動して、外へと向かっている。

「何かに呼ばれているような気がして、さっき、目が覚めたんだよね」

何に呼ばれているのかが気になって、まず窓を開けて外を見たのだ、と言う。

「それってこれだったんだなあって思って」

と、裏口から外へ、広い中庭へと出たウイは、そこで手を放して駆け出した。

あ、と思うまもなく、木々が茂り草花が生えている庭の中まで走っていって、立ち止まる。

そうして、ね?と、両手を広げて笑顔でミオを振り返った。

それが、ウイのいう「大丈夫」な意味であることが判らなくて、ミオは困惑する。

ウイにそれをたずねるために、ミオも中庭へ踏み出し、ウイのいる場所まで歩いていく。

その間に、ウイが建物を見上げて、手を振った。

つられて上を見れば、先ほどまで居た部屋の窓から、ミカとヒロが見えた。

 

それで、思い出す。

 

ウイは、窓から落ちそうになった状態で、「怖い」と言った。

どんな高所でも、そこから落ちることにためらわないウイが。

船のマストでも、3階のベランダの手すりでも、平気で駆けて跳ねる、身軽なウイが。

そのことに気づいたミオを知ってか知らずか、ウイが上を見たまま話し出す。

「ウイね、今までは、ずっとあっちに呼ばれてたの」

その視線は、部屋の窓から、上空へと移っている。

あっち、とは、天空のことなのだろう。

「天使界から落ちて、翼を失くしたあとも、上に上に身体が呼ばれてるみたいだった」

そこがウイの居場所だった、と言われて、胸が痛くなる。

居場所を失ってしまったウイを思えば、切ない。だが、ウイはミオを見て笑う。

「でもね、今はほら、こっちに呼ばれてるの」

こっち、と軽く飛び上がって、しっかりと地面に着地する。

両脚が大地を踏みしめる。

身体は、地上に引き寄せられる。

ミオにとっては当たり前のことを、ウイは、「呼ばれてる」と言った。

 

人間に、なったから。

 

「ここにいていいよ、って言ってもらえるのは、とても安心するでしょ?」

だから。

「大丈夫なんだよ」

心配しないで、とミオの手を取る。しっかりと握ってくれる。

「ウイは、どこにもいかないよ」

ここにウイの居場所があるんだよ、と言われて、泣きたくなった。

それが、嬉しいからなのか、悲しいからなのか、ミオにもわからない。

「ウイちゃんは、人、間に、なったから…」

「うん」

「私たち人間を助けるために、守護天使でいられなくなったんでしょう?」

それはウイにとって、どれほどの喪失なのか、わからない。

居場所があるといわれても、その喪失を、自分たちが埋めて上げられるのかさえも、

判らない。

とても、無力だ。無力な、人間の一人だ。

自分の力のなさが、今、とても悲しいのだと思った。

その告白を、ただじっと黙って聞いていてくれたウイが、「んー」、と、いつものように、

考える時の声を出す。

そうして。

「それは、ちょっと違うんだなあ」

と、ミオの手を軽く振って、沈み込むミオの意識を自分の方へと向けさせる。

「人間のためにウイ一人が犠牲になればいいや、って思ったんじゃないよ」

その言葉は、ミオを慰めようとしているのではなく。

ウイの、真実。

「そんな風に言われると、ウイのしたことは悲劇の英雄っぽく聞こえるけれど」

 

ウイは、守護天使なんだよ

 

そう力強く宣言したウイは、ミオの不安とはまるで違うところにいるのだ。

「ウイはね、天使界のみんなのために人間になることにしたんだよ」

「…天使、界の?」

「そう。いっぱいいろんなことを考えたけど、最後に思ったのは天使でいることだったの」

守護天使である仲間が一番に望むことを、思った。

その願いを叶えるために出来ることは、人間になることだった。

「ウイが全知全能の神様だったら、そりゃあ人間も天使も一度に助けちゃうけどね?」

と、軽く冗談めかして笑う。

今、ここでちゃんと笑えるウイは、ミオが考えるより、ずっと強い意志でその選択をした。

「守護天使はね、人間を導いて守るために生まれてきたの」

長い長い時間をかけて、人間のために良かれと働いてきた守護天使たちの中で。

人間の世界に光あれ、と、ただそのことを願って、守り抜いてきた天使たちのために、

人間の「今」を守った。

そして。

人間を守り導くことは、本当に正しいことなのか、と迷いながら答えを見つけられず、

それでも身を粉にして働いてきた天使たちのために、

人間の「未来」と、それによってもたらされるはずの、「回答」を守った。

 

あなたたちの任務は、人間に光を与えることは、とても正しい。

そう、仲間の天使たちに証明するために。

 

ウイが選んだ道は、そういうことだった。

 

「ウイは、ウイに出来る唯一の方法で、自分の願いを叶えただけなんだよ」

そうして、それができたのは。

「人間になっても、ウイが天使でいられることを、もうちゃんと知ってたからなの」

「人間になっても?」

「そう、だからね、人間になることは何も失うことじゃないんだよ」

ウイは、ここにいる。

守護天使として、この大地に居場所がある。

「ミオちゃんが、言ってくれたでしょ?」

 

私たちが、ウイちゃんの、光の輪に、翼の代わりになります

 

「あのときから、ウイは光の輪と翼をもつ守護天使のまま、地上にいるよ」

まだ、旅の始まりの頃。

無力に嘆くウイを励ましたいと思った言葉だった。

あの頃はまだ、ウイが<守護天使>であるという実感はなかったけれど。

その言葉が、ずっとウイを支えてきた。

だから。

「これから先も、ずうっと、守護天使のままでいられるんだよ」

 

だから大丈夫。何も心配しないで。

 

そうウイが言っていたことは、全て、ここにあった。

大地に足をつけて、自分の力で進んでいく。仲間の支えで立っている。

そうすることの願いは、ただ一つ。

 

天使の導きのままに、人間たちに、幸いあれ

 

「ミオちゃんが賢者になりたいなら、ウイは応援するし、手助けもできるけど」

その後の選択は、これからのミオちゃん次第だからね、とウイが言う。

「私、が?」

「ミオちゃんが、自分でちゃんと幸せになること」

どんな未来が待っていても、必ずミオ自身が幸せでいること。

「ミオちゃんが辛かったり、悲しんでたりしてたら、ウイは助けてって言えないよ」

逆にミオちゃんのことが心配で、お師匠様探しどころじゃなくなるよ。

と、なんでもないことのように告げる。

ウイのために出来ることを、とミオが悩みぬいたこの数日間に、答えをくれる。

「悲しみに逃げちゃだめだよ」

あの時、ヒロがこちらの世界へと引き戻してくれたから、それが言える。

ヒロにそうしてもらったから、今、ウイはここにいる。

だから、何かを選ばなくてはならないときは、必ず、幸せでいられる方を

選んで。

「もちろん、ミカちゃんも、ヒロにも同じことが言えるわけでー」

あの二人も、ウイの力になりたいと願い、そのために出来ることは一つ。

「そして、ウイの方もそれは一緒だと思うんだよね」

幸せでいること。

「天使の願いを叶えられて、人間を守ることができて、ミオちゃんたちが傍にいてくれる」

ずっと、先の未来まで。

「ほらね、ウイは今、こんなに幸せだよ?」

だから皆を助けてあげられるんだよ、と言い聞かせられて、素直にうなずいた。

 

「人は幸せになるために生まれてくるの」

 

それは、幸せの確約ではない。

幸せを掴むための、命の叫びだ。

 

「ウイは、そう信じてるから」

 

守護天使になると決めた日がある。

 

「ミオちゃんは、奇跡って、なんだと思う?」

そう問いかけられて、ミオは、とても大事なものを受け取った気がした。

「自分の力では、叶わないこと、…でしょうか」

「うん、そう、それってね、人間の持つ力だと思うんだよね」

初めて地上に落ちた時、ウイは奇跡を見たよ、と守護天使が語る事実。

「小さな子たちが集まって、皆で力を合わせて花を咲かせていたの」

一人ではできないことを、多くの手が集まって成し遂げていく奇跡。

無力であることを嘆くだけに留まらず、そこから踏み出していく奇跡。

 

「いつかきっと人間は、翼がなくても空を飛べるようになるよ」

 

あの星にだって行けちゃうかもしれない、と昼日中に隠れている天空の星を指す。

人間が、天使に会いに行く。

人の奇跡を目の当たりにして、星になった天使たちは何を思うのか。

 

「無数にある星の中には、この世界のように人間たちが暮らす世界があるかもしれない」

その世界に住む人間たちを、星々が愛せるように願う。

滅ぼしたり、滅ばされたりしなくてもいいように、星と人間とが愛を知る。

 

「だからウイは、人間が正しく幸せになれるように守護天使になった」

 

光のほうへ。

明るく、輝ける光のあるほうへ、人間が進んでいくために。

 

「そして今は、その人間にもなることができた」

 

ここで生きていく。

仲間と、力を合わせて幸せになるために。

奇跡を、起こすために。

 

「ウイちゃんは、本当に守護天使なんですね」

ウイは悲劇を抱えない。それはミオが抱えていた悲劇でしかなかった。

世界は、一つでありながら、人が思う数だけ無数に存在している。

どんな風にも変わっていく。

その無数の世界が光のほうへと進むために、一人ひとりが幸せにならなくてはいけない。

人間の持つ、「奇跡」の力で。

 

今度は、天使に代わって、人間が全てのものを守るために。

 

今、ウイから受け取った大事なものは、しっかりとミオの手の中にある。

それを大切に受け継いでいく。

ずっと、先の未来まで。

 

人と、星を繋ぐ絆を、守っていくために。

 

 

 

 

 

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1 コメント

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凄く感動しました! (ミシェア)
2016-02-25 20:59:03
現在進行形で号泣中です(>
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