切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

国立劇場で、新派公演見てました。

2016-03-06 23:59:59 | 芝居日記(ex.伝統芸)
久々の新派観劇だったんですが、新派独特の掛け声が少なかったなあ~。でも、舞台はなかなかでした。簡単な感想。

最初が川口松太郎原作の「遊女夕霧」。花柳章太郎の花柳十種のうちの一つで、今回は波乃久里子で相手役が近く喜多村緑郎を襲名する市川月乃助。

パンフが面白かったんですが、波乃久里子によると、先代17世勘三郎が彼女に(初代)水谷八重子の型ではなく、花柳章太郎の型でやりなさいと指示したというんですよね。でも、少なくとも今回の舞台では、わたしは波乃久里子の台詞の可愛さらしさに初代水谷八重子の雰囲気を感じましたね~。初代水谷八重子の魅力の第一は何といってもあの声の可愛さでしょう。といっても、わたしが観たことのあるのは、古い舞台映像くらいで、生の舞台はもちろん観ていませんけど・・・。

そして、月乃助はすっきりしていいんだけど、もっと台詞が歌ってもいいのになとは思いました。それと、この人はあらためて体が大きいな、と。スーパー歌舞伎の面々は、歌舞伎役者としては体格がいいので、その中に混ざると感じなかった体格のよさが、新派に中に入ると目立つんですよね~。これは新派の世代交代の予兆かな~という気もしました。

次が、榎本滋民原作の「寺田屋お登勢」。八重子十種のひとつで、今回はお登勢に二代目水谷八重子、坂本竜馬に中村獅童。

二代目水谷八重子というと、個人的には「水谷良重」時代の映画作品が結構印象に残っていて、中でも成瀬巳喜男&川島雄三の珍しい共同監督による傑作『夜の流れ』の、芸者金太郎役なんか、よかったですね。当時はアプレ芸者とか、新しい世代の若者像を演じることが多かったし、勝新の『悪名』シリーズの出演でもそうだったけど、若いのに変な貫録があって、存在感があった。『花の吉原百人斬り』の八つ橋も忘れ難いですね。

で、今回の舞台。二代目のお登勢は、たぶん初代とは違う魅力なんじゃないかと思いました。というのも、舞台のなかで、頭巾をかぶった登場シーンがあるんだけど、「合邦の玉手みたい」だという台詞が象徴しているように、二代目の情念は玉手御前みたいな強さがあるな~と。初代は、けなげなお登勢だったんじゃないかと思うんで。

獅童の竜馬は、元気があって愛嬌もあり、台詞も堂々たるものなんですが、あえていうなら、時代を動かした人物の懐の深さがもうちょっとでるとよかったかなという気も・・・。でないと、船宿の年増の女将が密かに惚れてしまうような男にならないかな、と。若くてギラギラした男という感じですからね~。

あと、瀬戸摩澄のお竜は初めて見たけど、この人の走り回るような元気な役をを初めて見たという気がして、新鮮味がありました。品のいいお嬢さんの役のイメージがありましたからね。また、すっぽんから登場する乙女姉さんの英太郎は名演だと思いました。

で、最後に新派全般に関して。以前もちょっと書いたけど、わたしが新派に寄せる関心の第一は、まず脚本。往年の名優たちに寄せて書かれた作品郡が再演再読に耐えるものである一方、入手が困難な作品も少なくないのが問題点。特に川口松太郎と北条秀司の作品の戯曲はもっと読みやすい環境になるとよいですね。

第二に、演出が非常に凝っていて勉強になるという点。歌舞伎の新作を書くような作者は新派を観るべきだと思うんですが、季節や土地を感じる効果音や掛け声の使い方、端唄や小唄、三味線の効果的な使用法なんかは非常に洗練されていますし、歌舞伎に比べて、ややテンポが速い展開とか、大道具が歌舞伎に近いようでひとひねりがある。今回の舞台の寺田屋の大道具なんて、傑作だと思います。

で、懸念することといえば、水谷、波乃の両巨頭の高齢化(スイマセン!)。二代目は初代の享年74歳を超えて76歳だし、波乃久里子も70歳でしょう。お二人とも元気とはいえ、世代交代に失敗しているようで、先々がどうにも心配。あと、新派はやっぱり女優もしくは女形の芝居だと思うんで、今までの新派のイメージを一新してしまうぐらいの女優もしくは女形に出てきてほしいなと。そこで、今までの脚本の現代的な読み替えが行われていくんじゃないかと。

と、偉そうにいいながら、わたしは二代目の「佃の渡し」が観たいです。もしくは、若い俳優による「佃の渡し」がこの傑作を蘇らせてくれるんなら、それでもいいなあ~。あと、今の歌舞伎役者で新派向きなのは、断然、猿之助でしょう!

というわけで勝手な感想書きました。書き捨て御免ということで・・・。


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