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日本の農業に「規模拡大」なんていらない 根本的にズレている安倍内閣の農政

2013-03-13 07:10:24 | 言いたいことは何だ
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37299


また農政の迷走が始まった。日本の農政は“猫の目行政”(猫の目のようによく変わる)と揶揄されたものだが、TPP交渉に関連してまたしても定見のない動きをし始めた。それは農業の現状を明確に把握しないままに、方針を打ち出すからだろう。病気の原因を特定せずに治療を行うようなものだ。

 ここでは「規模拡大」に焦点を当てる。日本農業が再生しない理由は、農水省が愚かで農協が既得権益に固執しているからだけではない。「規模拡大」を叫ぶ財界人やエコノミスト、マスコミにも問題が多い。

なにも目新しいものではない安倍内閣の農政




 安倍内閣は、TPPを推進するにあたり農業を成長産業にすべく改革を進めるそうだ。農産物の輸出額を1兆円にするとの目標を掲げている。

 ただ、目標が低すぎる。1ドル100円として計算すると、FAO(国際連合食糧農業機関)の調べでは、小国のオランダでさえ7兆7000億円もの農産物を輸出している(2010年)。一方、日本は3200億円に過ぎない。それは韓国(3800億円)の後塵を拝している。

 ついでに言うなら、中国やインドが発展すると世界中から農産物を買いあさるようになり、それが原因で日本が食料危機に陥ると言われているが、中国は3兆6000億円、インドも2兆円もの農産物を輸出している。日本で語られている世界農業に関する話は、どこか狂っている。

 そんないい加減な情勢分析に立って農政を語るからおかしくなる。今回も、改革案として出てきたものは「規模拡大」である。1戸当たりの農家が保有する農地を広げようというのだ。

 しかし、それは長年言われ続けてきたことである。なにも目新しいものではない。先の小泉改革の際にも声高に叫ばれている。しかし、あの日本中が熱狂した小泉改革でさえも「規模拡大」を実現できなかった。

育てるべきは野菜農家や畜産農家




 ここで重要な事実を伝えたい。それは現代農業においては、土地が制約条件にはなっていないことである。
もちろん、コメやトウモロコシを作るには広い土地が必要である。しかし、穀物の生産額はそれほど大きくない。保護されているために日本のコメは高いが、それでもコメの生産額は1兆8500億円である。一方、野菜はほとんど保護されていないが2兆1300億円、若干の保護はあるがコメほどには保護されていない畜産業が2億5500万円である。この傾向は海外でも同様である。儲かるのは野菜や畜産なのだ。
 穀物は儲からない。だから、米国やオーストラリアのように広い土地を有する国でしか採算が合わなくなっている。その米国でも、トウモロコシをバイオエタノールの原料にすることによって価格をつり上げるなどの保護政策が行われている。

 しかし、多くの日本人は「農業」と言うとすぐにコメを連想してしまう。これは日本の歴史がそうさせるのであろうが、現在、産業として農業を見るときに、そのような認識は間違っている。育てるべきは野菜農家や畜産農家である。

 そして、両方とも広い土地はいらない。それがあの狭いオランダが農産物を輸出して儲けている理由である。ついでに言うなら、オランダは穀物をほとんど作っていない。飼料穀物はほとんど輸入している。そのために、オランダの穀物自給率は日本より低くなっている。

 農業を産業として育てるためには「規模拡大」を行う必要などない。それなのに、農業改革を語り出すと、コメが重要との先入観から抜け出せないために、「規模拡大」がつい口から出てしまう。

 そして地方の猛反発をくらう。それは地方が過疎化に苦しんでいるからだ。人口減少をなんとか食い止めたい。これは地方の切実な願いである。しかし、「規模拡大」はこれに真っ向から対立する。

定年帰農を阻害することになる規模拡大




 現在、地方がコミュニティーの維持に期待をかけているのが定年帰農である。ちょうど、団塊の世代が引退する時分である。今や60代はまだ若い。年金をもらいながら、90歳近くになった親の介護をしてもらいたい。地方自治体はそう思っているし、年老いた親も都会に出ていった子供が戻ってくることは嬉しい。

 しかし、強力に農地の規模拡大を推し進めるのであれば、定年帰農などと言っていられない。現在、約210万ヘクタールでコメや小麦などを作っている。そこに178万人が働いている。だから、農家1戸当たりの面積が1ヘクタール強なのだ。
このような状況の中で、もし米国並みに1戸が保有する面積を100ヘクタールにすれば、農家は2万1000戸で十分になる。農水省の調べでは、現在でも39歳以下の農業への新規参入者は年間1万4000人いるから、「規模拡大」を本気で行うつもりなら、現在の新規参入者でも多すぎる。
 それなのに、政府は農業の担い手不足を心配し、対策を講じている。それは、アクセルとブレーキを同時に踏む行為である。

コメを輸出産業にしてもたかが知れている




 日本のコメは21万円/トン程度であり国際競争力がない。品質の問題があるから、いくらにすれば競争力を有するかについては議論があるところだが、競争力を持たせるためには、少なくとも現在の半値程度にする必要があろう。しかし、そうなれば売り上げは9000億円だ。ちなみに昨今話題になっているシャープの売り上げは2兆5000億円である。

 価格が安くなれば、増産し輸出できると言う人もいるが、農地は210万ヘクタールしかないから、生産量は頑張っても現在の1.5倍程度にしかならない。

 コメを輸出産業にしたところで、たいした産業にはならない。地方はこのようなことを肌で感じているから、規模拡大に反対している。

 だが、地方が規制に守られて“ぬくぬく”していると思っている財界人やエコノミストにはこのあたりの事情がよく分からないようだ。

 より詳しく実情を知りたい方は、『食料自給率の罠』(朝日新聞社、2010年)、『「作りすぎ」が日本農業をダメにする』(日本経済新聞、2011年)に書いているので、ご一読いただければ幸いである。


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