憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

―鬼の子(おんのこ)― 12 白蛇抄第14話

2022-09-06 07:06:22 | ―おんの子(鬼の子)―  白蛇抄第14話

だが、

「かなえ・・が、わしにそういうか?」

唇をかんだかなえである。

主膳にいかせとうないといえる自分ではない。

この頃に海老名は、かなえに後が出来ぬ事に一つの推量を得ていた。

―かなえ様の血は、童子に馴れたとき

すでに鬼の物に塗り替えられてしまっているのではないか?―

破瓜の傷跡から童子の精が入り込んでゆく。

かなえの思いが童子の精をうけとめ、

そして、かなえの血をも童子のものにかえている。

だから、主膳の胤を受け止めてみたところで、胤は育ちはしない。

かなえの血が、童子の思いが流れ込んだ血が、主膳を拒絶するのだ。

―孕むわけなぞないのだ―

かなえが童子に抱かれた其の時にこの運命は既にさだまっていたのだ。

それに、今頃気が付いたのである。

海老名がこんな風に思った頃には、

やはり、かなえの中にも同じような疑念が生じてきていた。

―童子のものでしかないのではないか?―

確証はない。

だが、主膳の思いを受け止めさせないほどに、

今も尚この身体が童子のもので有り得るのなら

―恋しい人のものである―

想ってはならない想いに胸をえぐられながらかなえは

もしそうであるのなら、と、いうせんない喜びをあじわっていた。

だからこそ、主膳にいってくれるなという言葉を投げかけれなかった。

心底が童子を求めている。

いくら主膳と身体を重ねようと、

主膳のものに塗り替えられない血こそかなえの思いのあらわれである。

それならば、どんなにしても、

きっと子が宿る事なぞ有り得ないのではなかろうか?

そうでなく、ただの石女になってしまった体なのかもしれない。

だが、いずれにしろ、其れが主膳を窮地に立たせている。

「八重さまも女子です。

女子に生まれ、其れを望まれぬ不幸せは、

主膳様の寵愛を受けて子を孕めぬかなえの不幸せをみるようです」

このかなえの言葉も嘘ではない。

鼎に一心に思いをかける主膳の心が有らばこそ、

かなえも主膳の側にいることに勤められ、

主膳の情愛に身体を預ける事をいとわずにおれたのであろうともおもう。

「かなえ・・・」

「どうぞ・・かなえの不幸を

八重さまがすくうてくれるとおぼしめして」

八重のところにわたれと言うか?

八重をだけというか?

「不遜な言葉で御座います」

八重を子を孕ませる道具のようにいうことである。

「かなえ」

主膳はかなえをかき抱いてはらはらと涙を落とした。

「なんで、子を宿さぬとお叱り下さいませぬ?

なんで、かなえをせめませぬ」

主膳は俯けた顔を上げると激しく首を振った。

「なんで、おまえをせめれよう」

 

そして、かなえのために主膳は、八重の元にわたった。

そして、男の身体の不可思議さを主膳は知らされた。

かなえ以外の女人を抱けるとは、想わなかった主膳であったが、

身体は見事に主膳を裏切った。

かなえへを裏切らせる己の欲情の汚さに嫌悪を抱いた主膳は、

その一度で八重に懐妊がある事を祈り続けた。

其の時のたった一度の行為が

一穂という嫡男をうませしめさせたのである。

かなえはそれで我が身をはかなんだのであろうか?

それとも、嫡男を産んだ八重のために身を引いたのであろうか?

主膳が思いつくことはそれだけであった。

が、そのどちらとも違うとおもう。

最後の日になる前の日にかなえを抱いた。

かなえは確かに

「ああ」

声を漏らしその快さに酔い痴れると

「愛しい」

と、小さくつぶやいた。

心地よさ其の物がいとしいのか。

それを与えてくれる主膳がいとしいのか。さだかではない。

が、そのかなえが死ぬわけがない。

自分の裏切りがかなえをおいつめたのか?

かほどにいとしい。

かなえは最後に主膳にそう告げて、

主膳の裏切りの辛さから逃げたということなのか?

何もかもあからさまにせず

ひっそりと自分の中で悲しみも辛さも押し殺して

逝く事を選んだというのか?

「母さまは時折お転婆でありましたから

楼上の雀の巣の卵でものぞいてみたにちがいない」

「え?」

精一杯の知恵を絞り勢はかなえの死が

不慮のものであると主膳に云おうとしていた。

「そ・・そうかもしれぬ・・の」

黒・・黒つろうないかや?

愛馬にそう声をかけたかなえである。

だったら、雀の子へにでも、

楼上から屋根に伝う阿呆をやりのけるかもしれぬ。

「だとしたら、かなえは困ったおてんばをしたものじゃの」

「はい」

勢がわんわんと泣き出すと主膳は、勢の手をつないだ。

「城に帰って・・かなえが可愛がった雀の子をさがしてみよう」

「はい」



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