お芳の口がとがるのを横目に見ながら洸浅寺の盆栽市をのぞいてくると、
外に出た剛三郎はやはり、洸浅寺を通り過ぎた。
染物屋に出向いたお登勢が帰ってくるのをみちぶちでまちうけていても、
不自然に見えないように、剛三郎はしきり腕組をして首をひねり、いかにも、考え事があって
此処にいるわけがある様子を繕っていた。
そうやって、待ってるうちにお登勢が戻ってきて
何か、考え込んでる剛三郎をみつける。
お登勢がどういうだろう。
「だんなさま?こんなところでどうなさりました?」
こういうだろう。
「いや・・・じつは、お芳が・・な・・」
半分も言わないうちにお登勢が身を乗り出してくるに決まっている。
「女将さんがどうなさったんですか?」
お登勢がたずねてきたら、
「実はお登勢のことでもある。きいてみたいことがあるのだが、話がこみいってくるし、通りすがりの人にきかれてもなんだし・・・。
どこか、人の目に触れないところで・・・」
こういって、お登勢を出会い茶屋にでもつれこんで・・・。
男と女の顛末ができあがってしまえば、あとは、なしくずし。
女なんてのは弱いもんだ。
剛三郎の首尾ができあがってきているというのに、
肝心のお登勢がまだ、戻ってこない。
お登勢も昨日の夜這いを剛三郎ときがついているのか、いないのか?
朝みかけたお登勢も剛三郎に対して普段と変わらぬお登勢の振る舞いに見えた。
本当にきがついていないのか。
あるいは、きがついていて、何もかも承知のこと、
つまり、お登勢も剛三郎のてかけになるきでいるのか?
いずれにしろ、いやいやであろうが、応諾の末であろうが、
女なんぞ・・・。
「抱いちまえば、こっちのものよ」
男のうぬぼれが自信になるにたりる、色恋もこなしてきた剛三郎でもある。
お芳のまえでは、抜け目なく婿養子の剛三郎であることに卒がない。
お芳にも剛三郎の挙動に不審すらもたせない。
婿養子でしかないわが身の保身にろうたけた剛三郎が代をついで、十五年。
お芳の商売の上手と老舗の肩書きがあったとはいえ、剛三郎が木蔦屋をささえて要に
なってきた十五年でもある。
「一度くらい、こそこそせずにやってみたってかまわないじゃないか?」
ましてや己の血を残す・・・となれば、
男の本懐といってもいい。
自分の言い分が通せる次期があまりに遅すぎたともいえるかもしれないが、
四十半ばを過ぎ、男としてのこの先を考えれば、
剛三郎の気持ちにうなづけるものがあるはずである。
こう考えれば、いまがちょうどいい時期なのかもしれない。
お登勢もめっきり、女びてきている。
悪い虫に横取りされる前に剛三郎こそがお登勢をもぎとってしまうしかない。
で、あるのに・・・・。
肝心のお登勢がまてど、現れない。
おかしいな?
と、おもいつつも、店に帰ってくるに此処を通るしかないはずであるから、
剛三郎はうでをくんでは、ほどき、お登勢をまつしかなかった。
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