読書感想179 燃えよ剣
著者 司馬遼太郎
生没年 1923年~1996年
出身地 大阪市
出版年 1964年
出版社 (株)新潮社 新潮文庫
☆感想☆☆☆
新撰組の鬼の副長、土方歳三を主人公にした歴史小説。この小説の出版を機に冷酷無比な敵役、土方歳三のイメージが男の中の男、最後まで戦って死んだ武士らしい武士と一転したという。こういう歴史小説を読むときにいつも思うのは、どこまでが事実でどこからが作家の創作なのかという点だ。創作なのではと思ったところは、土方歳三の女性関係だ。京都で恋人としてお雪という武家の後家が出てきたり、故郷で名家の女たちと関係をもっていくところだ。上昇志向から名家の女を求めたとあるが、どうだろうか。強い武士になりたいという気持ちはあったと思うが、その鬱憤のように名家の女を求めただろうか。また、八王子の千人同心たちが通う剣術道場との争いや決闘は実際にあったとは思えない。なぜなら千人同心と新撰組は良好な関係にあるからだ。千人同心の子弟がかなり新撰組に参加しているし、豪農である土方家も千人同心と無縁の家でもないだろう。
土方歳三の本領は負け戦の中に現れてくる。現場の指揮官として鳥羽伏見の戦いから函館戦争まで戦い抜く。薩長には義がないという一点で刀を下ろさない。負け戦の中で、指揮官としての卓越した手腕を見せる。宇都宮城を奪ったり、宮古湾の軍艦を奪おうとしたり、軍事的な才能がどんどん進化していく感じだ。土方歳三は軍人としての才能を生かす場が負け戦の中にしかなかったのが、かえすがえすも惜しい。この小説の中に描かれている以上に幕府に忠誠を尽くすという一点がぶれず、目的に集中した人のような気がする。