著者 堂場瞬一
生年 1963年
出身地 茨城県
出版年 2014年
出版社 (株)講談社
☆☆感想☆☆
吉祥寺で生まれ育った刑事が警視庁捜査一課から地元の武蔵野中央署に戻ってくる。その刑事、瀧靖春は吉祥寺に住む大学時代の同級生、長崎稔から姪の長崎恵の行方を探すように頼まれる。2日前から連絡が取れなくなっているという。事件性があるかわからない段階で、瀧は交番勤務から刑事課にひきあげられたばかりの若い野田あかねと組んで捜査を始める。長崎恵は群馬県から上京しアパートで一人暮らしをしている20歳の女子学生である。大学での友人やアルバイト先の学習塾での聞き込みから、恵が学習塾のほかに「秘書」のようなアルバイトをしていたらしいことがわかる。どんな「秘書」なのか。瀧が地元にもどるきっかけになったのは、脳梗塞で倒れた父親の佑一郎の存在である。歩行訓練のリハビリに励む父親は武蔵野市の市議会議員を務めていたが、今は引退している。その父親が30年前、20年前、10年前にも同じような事件があったと言う。
ここに出てくる主要な登場人物はみな武蔵野市で働いているか、住んでいる。武蔵野市に関係のある人ばかりだ。そして舞台も吉祥寺周辺だ。吉祥寺の町の様子も詳しく紹介されている。南口のロックバーや焼き鳥屋の「いせや」、北口のメンチカツで有名なお店や焼きパスタのお店まで。戦後の闇市から発展したハモニカ横丁や巨大デパート、サンロードのようなモール街が無理なく一体化したところが吉祥寺の不思議なところだという。
都会ではなかなか見られない濃密な(?)人間関係と郷土愛を横軸にして、事件の謎解きを縦軸にして展開していく物語は、謎解きの面白さもさることながら、全体として温かい余韻を残していく。また吉祥寺を歩き回りたくなくる。