風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

爪を切る

2018年12月04日 | 「新エッセイ集2018」

 

きょうも終わったと思う、夜は一日の終わり。
爪を切る。
切るたびに頭に浮かぶ言葉がある。
「夜に爪を切ったら親の死に目に会えない」と。
すこしためらいがあり、すこしほっとする。
もはや両親とも、この世には居なかったのだ、と。

親父は夜中に眠ったまま、誰にも気づかれずに死んだ。
おふくろの死は、会いに行く途中で、フェリーを降りたところで知らされた。
だから、どちらの死にも立ちあうことはできなかった。
いつも夜に爪を切っていたからか。
いまも爪を切りながら、親のことが頭をかすめる。

ずっとのちに田舎の家で、親父の遺品から爪切りを見つけたので、爪を切ろうとしたら、ぽとりとこぼれたものがある。
大きな爪の欠片だった。
生前の親父の爪にちがいなかった。
親父が切った、たぶん最後の爪がそこにあったのだ。
そのときも夜だったけれど、夜だったのでことさらに、久しぶりに親父に会ったみたいだった。

 

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2 コメント

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どんな海だろう (yo-yo)
2018-12-08 07:40:17
つゆさん
コメントありがとうございます。

爪と親の死とが繋がっているのも
なぜか不思議ですね。
子どもの頃は親に爪を切ってもらったものでしたが、
そんな記憶とも繋がっているのでしょうか。

「休みのない海」
すてきなブログネームですね。

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はじめまして (つゆ)
2018-12-07 20:46:36
心に沁みるお話でした。
やはり夜爪を切ってはいけないと。
つづく言葉は知りませんでした。
だから、そんなの、迷信よと、夜平気で爪を切っていました。
私も、両親とも会えませんでした。
タイミングよく帰郷できなかったことを、よく思い出します。
「休みのない海」から来ました。
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