その後の野良の子ネコたちは、小さいながらもそれぞれに個性らしいものを現わし始めている。
ヒトの気配がすると木の陰に隠れてしまう臆病な奴や、さかんに木登りをする活発な奴もいる。草の中でじゃれあうのが好きな奴もいて、草むらの中でもがいている小さな足が忙しく宙を蹴っていたりする。
その近くでは、相変わらず親ネコが警戒してぼくの方を睨んでいるので、ゆっくり観察することもできず、ただ遠目で眺めながら通り過ぎることにしているのだが。
最近読んだ宮沢賢治の童話『猫の事務所』の、猫のイメージを引きずっているので、ぼくはネコの世界とヒトの世界との境界がすこし曖昧になってきている。
猫の事務所には、事務長の黒猫と4匹の猫の書記がいる。事務長は大きな黒猫で、少しもうろくしているが目が銅線を張ったように立派だという。
4人の書記にはランクがあって、一番書記の白猫から順に虎猫と三毛猫、そして四番書記の竈猫(かまねこ)となっている。竈猫はいちばん下っ端ということになる。
竈猫(かまねこ)というのは、夜は竈(かまど)に入って眠る癖があるので体が煤で汚れている。鼻が黒くて狸みたいなのでほかの猫からは嫌われている。
竈猫はまじめに仕事をこなし、みんなに好かれようと努めるのだけれどうまくいかない。寒がりなので竈(かまど)で眠ることもやめられない。竈猫は土用に生まれたので皮が薄くて寒がりなのだという。
猫も事務所も、どうみても人間世界の風刺にみえてしまうのが、おかしくて切ない。
以前はネコのことなど全く関心がなかったけれど、最近は寒い夜など、野良たちはどこでどう凌いでいるのだろうかなどと、野良たちへのシンパシーが強くなったような気がする。きっと野良の子ネコたちのせいだろう。
いまは無垢で可愛い野良の子ネコたちも、それぞれに白猫や虎猫や三毛猫や竈猫などに育っていくのだろうか。
公園がますますネコだらけになって、そのうちネコの公園になってしまったら、猫の事務所もできるかもしれない。
猫の事務所がどんな仕事をするのかについては、宮沢賢治の「猫の事務所」を訪ねてほしい。