あまりにもどこも真っ白な
いちめんの雪の原
道のない道をあなたと二人で歩いた
あめゆじゅとてちてけんじゃ……
あなたは呪文のようにつぶやきながら
わたしがすくった雪のかたまりを口に入れる
ミクロの目をもっていたら
ここはお花畑か星空のようだろうね
と言った
あなたの後ろを歩いていくわたし
ミクロの世界には入っていけなかったが
あなたの大きな靴跡にわたしの靴を沈めながら
おどけた子供のような大股になったとき
お花畑が見えたような気がした
ああ 空が青すぎて落ちてきそう
あなたの恋人でも妹でもないけれど
この時だけはもしかしたら
ここには道だってない
あるのはふたりの靴跡だけ
雪がしっかり残してくれる
そして何もかも消してくれる
まがったてっぽうだまのような……あなたは
ただ黙々と歩いてゆく
道のない道の向こうに
直立不動で立っているおじいさん
笑顔があなたにそっくりで
わたしは頑固な父が立っているのかと思った
ふりむくと
いちめんの白い世界
ふたりの靴跡だけが残っていた
(2004)