窓から海が見えます
そんなことを書いて
絵葉書を出したことがあった
海の色あいの漠々として
隔たった広がりの先に
私の手はさまよってしまう
海にも塵が降り積もるらしい
半島のかたちは変わらなくて
裸の女が仰臥している
乳房に似てまるく突起した稜線を
修験者たちは越えていくらしい
フェリーの航跡が
白く伸びてゆく
あのひと筋は記憶に似ている
指を濡らして戯れた日々の
言葉は潮風に輝いて
ひとつずつ異なった貝の形をしていた
いつしか
色の層がはがれてゆき
さざめく潮がゆっくりと沈められて
風景がこんなに静かになってしまった
記憶もこうして
化石になるのでしょうか
どこへ行くのでもない
私もやっと旅行者になれる
足跡も残らない旅で
ここはシーサイドホテル
6階の605号室
(2004)