風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

風の記憶

2010年04月19日 | 詩集「風の記憶」
Kazekioku


風が吹いていたね
ぼくはそれまで気がつかなかったけれど
きみが教えてくれた
休火山の放物線の山頂から
まっすぐに吹き降ろしてくる風だった


きみは言った
風の色が青いと
空の色に近く
水の色に近い
それは透明な青だと


その時のきみの
宙に浮いままの手の動きが
あれは
風をすくっているようだった


青は透明なのだろうか…
灰色の稜線にたち切られた空の
濃い青さのなかに
風の行方がとてもたよりなくて
きみの言葉をときどき
見失いそうになった


透明な風の向うで
ときおり両手をひろげて羽ばたこうとする
風のなかの風をたぐり寄せる
きみの指先がふるえていた
あれは
風のせいだったのだろうか


山の影がのびて
すこし蒼ざめた顔をして
きみとぼくは
そんな日があったね


過ぎてゆく
季節の手が
空の色にも届かなくて
水の色にも届かなくて
透明な風のなかに
きみはいた


(2004)


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