風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

魚になる季節

2010年04月23日 | 詩集「風の記憶」
Sikaku


魚になろうって
きみが言ったから
ふたりは裸になって
思いっきり水になって
魚になった


重たい水をおし開く
揺れているきみの顔が
泡つぶだらけで
ひげのある恐い魚にみえた


魚になったきみは
わたしの足をつかんだまま
なかなか離してくれない
わたしは水を飲んで死にそうで
いくども息がつまった


弱った魚になって
ふたりは岸にあがり風を吸った
きみのおちんちんは小さくてまっすぐ
わたしは固くなった乳首がくすぐったい
きみはオスでわたしはメス
魚のようなひらめきをした


膨らみかけたわたしの胸をみて
きみはとまどう
その時からきみは
魚になろうなんて言わなくなり
わたしはたぶん
きみよりも強くなった


弱虫のきみは川をすてた
わたしは今でも
川のそばで暮らしている


あれからいちどだけ
わたしは魚になった
わたしのまわりのすべて
草のいろも花のいろも失われ
苦しくて苦しくて
わたしの小さな魚たちが
あぶくになって空へとのぼった


(2004)


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