風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

コスモスの風が吹いている

2015年11月05日 | 「詩集2015」

林を抜けると、とつぜん新しい世界が眩いばかりに出現した。
そこは、コスモスの花ざかりだった。
かつて出会ったものやいま目の前にあるもの、さまざまな季節の記憶がゆるやかに揺らいでいる。どこから来てどこへ行くのか、賑わいと静けさの風が通りすぎていく田舎の、無人駅のような花の駅である。
風が吹くと花の旅立ちがはじまる。どこかにもっと、すてきな世界があるのだろうか。夢想しながら、コスモスの風に運ばれていく。


*

  コスモス

ネットオークションで
小さな駅を買った
小さな駅には
小さな電車しか停まらなかった

小さな電車には
家族がいっしょに乗ることができない
いつのまにか一人ずつ
手を振りながら家を出ていった

せっせと駅のまわりに
コスモスを植える
秋になると満開になって
小さな駅は見えなくなった

風が吹くと
コスモスの花がくるくる回る
耳をすますと遠くで
かすかに電車の音がしている

           (2011)








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